一口口説(雑)

逢えば心もつい急き立って 話す言葉も後や先
安芸の宮島廻れば七里 浦が七浦七えびす

浅い川じゃと小褄をからげ 深くなるほど帯をとく
朝の出がけにどの山見ても 霧のかからぬ山はない
徒やおろかで逢われるものか 二町や三町の道じゃない
あの娘器量よし牡丹餅顔で 黄粉つけたらまだよかろ
雨の夕べは降られて帰る 今宵月夜に照らされた
雨は降る降る薪は濡れる 可愛いこの子は雨雫
鮎の子でさえ早瀬にゃもまれ 上りつめなきゃ流さるる
あわぬうちなら夜露も怖い 濡れりゃ浮名がいつか湧く
あんたよう来たよう来ちくれた わしが思いの届いたか 
いくら口説いても張子の虎は すまし顔して首を振る
石のおくどにハガマをかけて 様と渡世がしてみたい
石は錆びてもその名は錆びぬ 昔ながらの泉岳寺
伊勢へ七度熊野に四度 愛宕様には月詣り
磯部田圃のばらばら松は 風も吹かぬに気がもめる
潮来出島の真菰の中に 菖蒲咲くとはしおらしや
一の枝より二の枝よりも 三の小枝が影をさす
一里二里なら伝馬で通う 五里と離るりゃ風便り 
稲葉白滝二つの川の 水も流れて末に逢う
今の若い衆は皆雌鳥か 囃子なければ口説かれぬ
嫌じゃ嫌じゃと畑の芋は 頭振り振り子ができる
嫌で幸い好かれて困る お気の毒じゃが他にある
厭なお方の親切よりも 好いたお方の無理がよい
色に染まるも元はと云えば 浅い心の絵具皿
浮寝鳥には夢結ばせて おろす五智網鯛しばり
受けた情に生身を埋めて 火事を封じた快長院
宇治の柴舟早瀬を渡る 私ゃ君ゆえ上り舟
臼に麦を入れぬかづく時にゃ 五尺体が乱れゆく
臼はすれすれ挽かねばならぬ 挽かでまうのは水車
臼をすり来たすらせちゃおくれ 私ゃやり木の番にゃ来ぬ
歌う心は湧かないけれど 胸の曇りを歌に出す
歌え歌えとせき立てられて 歌は出もせで汗が出た
歌は歌いたし歌の数知らぬ 何を頼りに呻きましょ
歌は千ある万あるけれど 恋の入らぬ歌はない
うちを出る時ゃお月さんと出たが お月ゃ山端にわしゃここに 
うつつ心で柱にもたれ 起きていながら主の夢 
馬に草積み野道を行けば 揚る雲雀の畑打つ 
上の空吹く風とは知らず 登りつめたる奴だこ 
エビシャ小屋では色事ぁでけぬ 将棋碁盤で目が多い 
逢うてよいのは夜更けの月さ お前薄情な枯れ芒 
沖のかもめに潮時ゅ問えば 私ゃ立つ鳥波に問え

沖の暗いのに白帆が見える あれは紀の国みかん船   
送りましょうかよ送られましょか せめてあの丁の角までも 
お酒飲む人花なら蕾 今日も咲け咲け明日も咲け 
お月さんでさえ夜遊びなさる わしの夜遊び無理じゃない 
お月ぁ山端に操の鏡 私ゃ柄杓の水鏡 
踊る中にも科よい娘 さぞや親様嬉しかろ 
小野道風は青柳硯 姥が情けで清書書く 
覚えない身にまた言いがかり 立たさにゃならない私の胸 
お前一人と定めておいて 浮気ゃその日の出来心 
お前百までわしゃ九十九まで ともに白髪の生ゆるまで
思い出しては写真を眺め なぜに写真が物言わぬ 
思い出します雪深峠 幾度涙で越したやら 
思い出しゃせんか泣きゃせんか殿御 思い出しもせにゃ泣きもせぬ 
親のない子と磯辺の千鳥 日暮れ日暮れに袖しぼる 

笠を手に持ち皆さん去らば いかいお世話になりました 
笠を忘れた峠の小道 憎や時雨がまた濡らす 
重ね扇はよい辻占よ 二人しっぽり抱き柏 
金の千両は一両もいらぬ 男度胸に惚れてやる  
可愛い勝五郎車に乗せて 引けよ初花箱根山 
可愛がられた蚕の虫も 末は地獄の釜の中 
可愛がられた五月の水も 末は秋田で逆落とし 
雉も啼かずば撃たれもしまい 私も逢わねば焦がれまい 
北に彦山五条殿は南 月は亀山上に照る 
君は小鼓調べの糸よ 締めつ緩めつ音を出だす 
伽羅の香りとこの君様は 幾夜泊めても泊め厭かぬ 
切れた切れたよ音頭の綱が 腐れ縄かやまた切れた    
来るか来るかと待たせておいて よそにそれたかまぐれ雲 
来るか来るかと待つ夜に来んで 待たぬ夜に来る憎らしや     
今朝の寒さに笹やぶ越えて 笹の露やら涙やら 
恋し恋しと鳴く蝉よりも 鳴かぬ蛍が身を焦がす  
恋の唐船碇を見れば 沖の鴎も忍び泣き 
恋の気狂い迷いの保名 またも迷うたか葛の葉に 
恋の小刀身は細けれど 切れて思いが深くなる 
工女三日すりゃ弁護士ゃいらぬ 口の勉強がようできた 
声はすれども姿は見えぬ 様は荒れ野のきりぎりす 
五月五月雨に白足袋雪駄 あげな妻持ちゃ恥ずかしや 
五月五月雨に乳飲み子が欲しや 畦に腰掛け乳のましょ 
腰の痛さよこの田の長さ 四月五月の日の長さ 
今年ゃ豊年穂に穂が咲いて 道の小草に花が咲く 
木挽きさん達ゃ蜻蛉か鳥か いつも深山の木にとまる 
木挽き女房にゃなるなよ妹 木挽きゃ腑を揉む早う死ぬる 
こぼれ松葉はあやかりものよ 枯れて落ちても夫婦づれ 
五本松から東を見れば 行こよ野菊の花盛り 
駒は七匹馬方一人 駒の沓打つ暇はない 
籠めた夜霧に待つ身を託ちゃ 千丁松明つけて来る 
子持ちよいもの子にくせつけて 添い寝するとて楽寝する 
今宵や十五夜有明なれど 様がござらにゃくれの闇 
咲いた桜になぜ駒つなぐ 駒が勇めば花が散る 
賽の河原の地蔵さんでさえも 小石小石で苦労する 
逆さ柳も鉄漿水も 姫にゆかりの七不思議 
先で丸う出りゃ何こちらでも 角にゃ出やせぬ窓の月 
桜三月あやめは五月 咲いて年とる梅の花 
桜町には桜は咲かぬ 粋な姿を花と見る 
酒が云わする無理とは日頃 合点しながら腹が立つ 
酒は飲みごろ桜は見ごろ 酌は白魚花見船 
笹に短尺七夕様は 川を隔てて恋をする 
差した傘柄漏れがすれど あなた一人はぬらしゃせぬ 
様が来たじゃろ上野の原に 駒のいななく鈴の音 
様と別れて松原行けば 松の露やら涙やら 
様は来る来る栗毛の馬で 私ゃ青々青の駒 
様は三夜の三日月様の 宵にちろりと見たばかり 
様は出て待つ出るこたならぬ 庭に篠箱二度投げた 
様よ様よと恋焦がれても 末は添うやら添わぬやら 
様よ三度笠こくりゃげて被れ 少しお顔が見たうござる    
寒い北風冷たいあなじ 吹いて温いのがまじの風 
さんさ時雨か萱屋の雨か 音もせずして濡れかかる     
鹿が鳴こうがもみじが散ろが わしが心にゃ秋は来ぬ 
仕事する時ゃ泣きべす顔で 酒を呑む時ゃ腕まくり 
獅子は喰わねど宍喰越えて 雨や霰や甲浦 
静御前の初音の鼓 打てば近寄る忠信が 
七里墓原栗山道を 様は夜で来て夜で帰る 
してもしたがる若後家さんは 今朝も二度した薄化粧  
忍ぶ恋路はさて儚さよ 今度逢うのが命懸け 
皺は寄れどもあの梅干は 色気離れぬ粋な奴 
死んで花見がまた咲くならば 寺や墓場は花だらけ 
好いたお方に盃さされ 飲まぬさきから桜色 
好いておれどもまだ親がかり 親が許さにゃ籠の鳥 
好いて好かれて口まで吸わせ 末は捨てられ巻煙草 
粋な浮世を恋しさ故に 野暮に暮らすも心から 
末も親様世が世であれば 宇治の茶摘にゃ行きゃすまい 
好きと嫌いが一度に来れば 箒立てたり倒したり 
硯ゅ引き寄せ墨する方は 恋の手紙をつらつらと 
製糸女工さんにどこ見て惚れた 紅い襷で糸を引く 
千里奥山あの水車 誰を待つやらくるくると 
その日その日の朝顔さえも 思い思いの色に咲く

抱いて寝もせにゃ暇もくれぬ 繋ぎ舟とはわしがこと 
田植え小噺ゃ田主の嫌い 唄うて植えましょ品良くに 
高い山から麓を見れば 瓜や茄子の花盛り 
滝に打たれて落ちそな岩も 抱いてからまる蘭の花  
竹に鶯梅には雀 それは木違い鳥違い 
竹に短尺七夕様よ 云えぬ思いの歌を書く    
旅の人には早惚れするな 末は茶のかす捨てられる 
誰か来たそな垣根の外に 庭の鈴虫音を止めた  
忠義一途の二階堂様の 五輪汚すな腹がせく 
月が差すかと蚊屋出てみれば 粋をきかして雲隠れ  
月が花影描いた窓も 今じゃ青葉の青すだれ 
月と花とのよい仲を見て 松は緑の角はやす 
月に照らされ雪には降られ せめて言葉の花なりと 
月に群雲花には嵐 散りて儚い世のならい 
月の夜でさえ送られました 一人帰らりょかこの闇に 
月は重なるおなかは太る 様の通いは遅くなる 
月は矢筈に踊りは浜に いとしあの娘は輪の中に 
月夜月夜にわしゅ連れ出して 今は捨てるか闇の夜に 
抓りゃ紫食いつきゃ紅よ 色で仕上げたこの体 
遠い山道ようきてくれた 花の雫か濡れかかる 
遠く離れて逢いたいときは 月が鏡になればよい 
歳はいたれど江戸吉原の 女郎の手枕は忘りゃせぬ 
鳶は錆びてもその名は錆びぬ 昔忘れぬ纏持ち 
泣いてくれるな門出の朝に 泣けば駒さえままならぬ 
永の年月心の曇り 晴れて逢う夜はまた時雨 
名残惜しさを口には出せず じっと咥えた帯の端 
夏は涼しい青葉のかげに 浴衣ゆかしき後影  
七つ下がれば鳥ゃ木にとまる なぐれ木挽きも宿につく 
何を言おうにもかを語ろうも あわれ明日の切なさよ 
何をくよくよ川端柳 水の流れを見て暮らす 
波に問うのはいとやすけれど 沖の白波ゃもの言わぬ 
西と東に立て分けられて 合わにゃわからぬ襖の絵 
似たと思えばわけない人の 後ろ姿も仇にゃ見ぬ 
主の出船を見送りながら またの逢瀬をちぎり草 
主は釣竿わしゃ池の鯉 釣られながらも面白い 
濡れてしっぽり打ち解け顔に 更けた世界をしみじみと 
寝ても眠たい夏の夜に 木綿引けとは親が無理 
軒端伝うて来る蛍さえ 月の隠れた隙に来る 
呑めよ騒げよ上下戸なしに 下戸の立てたる蔵はない 
箱根八里は馬でも越すが 越すに越されぬ大井川 
話しらけてついつくねんと あけて口説の夏の月  
花になりたやジュクロの花に 花は千咲く実は一つ 
花のお江戸は水よし清し 育つ女は器量よし 
花の奥谷流れちゃならぬ 植えた木もありゃ花もある 
花の川には大石小石 水も流れて花と散る    
花は霧島煙草は国分 燃えて上がるは桜島 
浜は塩焼く煙に暮れて 燃ゆる乙女の恋心 
一つ出しましょ薮から笹を つけておくれよ短尺を       
人目厭うて裏道廻る 知らず待つ身は気が揉める 
人目忍ぶの飴屋の坂で 好いた同士がもやい傘 
一人生まれて一人で死ぬに なぜに一人じゃ暮らされぬ 
広い世界にお前と私 狭く楽しむ窓の梅 
ぴんとすねてはまた笑い顔 苦労させたり泣かせたり

富士の山ほど登らせおいて 今は釣瓶の逆落とし 
富士の雪かや私の思い 積もるばかりで消えやせぬ 

船の新造と女房の良いは 人が見たがる乗りたがる 
船を出しゃらば夜深に出しゃれ 帆影見ゆれば懐かしや    
程のよいので油断がならぬ 添うた私が気がもめる 
惚れてつまらぬ他国の人に 末は烏の鳴き別れ 
盆が来たなら踊ろや競ろや 品のよいのぬ嫁にとる 
盆が来たらこそ麦に米混ぜて 中に小豆がちらほらと 
盆の踊りが習いたきゃござれ 盆の十三日に見てござれ 
盆の踊り子が塩浜越えて 黒い帯して菅笠で  
待てど帰らぬお方と知れど 今日もくるくる糸車    
ままよ菅の笠被り様がござる 後ろ下がりに前よ上げて 
まめで逢いましょまた来る盆に 踊る輪の中月の夜に    
水の出端と二人が仲は 堰かれ逢われぬ身の因果 
水は溢れて谷間を縫うて 里の娘の化粧水    
身には衣着て名は帯しめて 心濁らぬ樽の酒 
水沼お水は濁らず涸れず いざり大蔵の脚も立つ 
娘可愛や白歯で身持ち 聞けば殿御は旅の人 
娘島田に蝶々がとまる とまるはずだよ花じゃもの 
昔なじみとつまずく石は 憎いながらも振り返る    
目出度目出度の若松様よ 枝も栄えて葉も茂る 
もののあわれは石堂丸よ 父を尋ねて高山に 
木綿引き引き眠りどまするな 眠りゃ名が立つ宿の名が 
木綿引く引く居眠りなさる 糸の出るのを夢に見た 
木綿引く引く眠りどまするな 眠りゃ伽衆がみな眠る 
八重の山吹派手には咲けど 末は実のない事ばかり 
八百屋お七と国分の煙草 色で我が身を焼き捨てる 
痩せるはずだよ今日この頃は 茶断ち塩断ち主のため   
野暮な屋敷の大小捨てて 腰も身軽な町住い 
山で怖いのはイゲばら木ばら 里で怖いのは人の口 
山は晴れても麓は時雨 里の籾摺りゃまだ済まぬ 
山は焼けても山鳥ゃ立たぬ なんの立たりょか子のあるに 
槍は錆びてもその名は錆びぬ 昔ながらの落し差し  
雪か霙か霙か雪か とけて波路の二つ文字 
雪のだるまに炭団の目鼻 解けて流るる墨衣 
雪の中でも梅さえ開く 兎角時節を待たしゃんせ 
夢か現か現か夢か 覚めて涙の袖袂 
宵の口説に白けた後を 啼いて通るや時鳥 
よせばよいのに舌切り雀 ちょいと舐めたが身の詰まり  
わしが歌うたら大工さんが笑うた 歌に鉋がかけらりょか 
わしが思いは月夜の松葉 涙こぼれて露となる 
わしが口説けば空飛ぶ鳥が 羽を休めて踊りだす 
わしが若い時ゃ吉野に通うた 道の小草もなびかせた
わしとあなたはすずりの墨よ すればするほど濃ゆくなる 
わしとあなたは羽織の紐よ 固く結んで胸に置く 
わしとあなたは松葉のようで 涸れて落ちても二人連れ 
わしとあなたは道端小梅 ならぬ先から人が知る 
わしとお前と立てたる山を 誰が切るやら荒らすやら 
わしも一重に咲く花ながら 人目悲しや八重に咲く 
私ゃ青梅揺り落とされて 紫蘇と馴染んで赤くなる 
私ゃあなたに惚れてはいるが 二階雨戸で縁がない 
私ゃ歌好き念仏嫌い 死出の旅路も歌で越す 
私ゃ奥山一本桜 八重に咲く気はさらにない 
私ゃ春雨主や野の草よ ぬれる度毎色を増す