交代の口上

声が出ませぬ蚊の声ほども まだもやりたやこの先ゃ長い

長いけれども蚊の鳴く如く 声が出ませぬしばらくしばし

音頭切らしちゃそれこそすまぬ そこで皆様お頼み申す しばし間の声継ぎゅ頼む

ヤーレ嬉しや太夫さんが見えた 誰もどなたもお覚悟なされ
覚悟よければこの声さらば
(交代する)
じわっと受け取る先様お上手 先の太夫さん京都な江戸な 一で声よい二で節がよい
三で音頭の調子といわず 四で気楽にお口説きなさる 五でご評判山より高い
六つ昔の三太夫の声に 勝りゃするともひけ取りませぬ 七つ難なく流した後に
わしを見たよなごく下手者が 音頭切らしたその時こそは

先の太夫さんに助太刀頼む わしの音頭で合うかは知らぬ

合うか合わぬか合わせちゃみましょ 合えば義経千本桜
合わにゃ高野の石堂丸よ 合わぬところは囃子で頼む

万に一つも合うたるならば 枯木花じゃと褒めくだしゃんせ

枯木花でも咲いたときゃ見事 咲くか咲かぬか咲かせちゃみましょ


まだもこの先読みたいけれど 声が出ませぬ蚊の鳴くごとく

やあれそうとも声継ぎゅ頼む いやさそうとも声継ぎゅ頼む

やあれ嬉しや太夫さんが見えた 見えた太夫さんに渡すが花よ
いやれそじゃそじゃお覚悟なされ 覚悟よければこの声さらば
(交代する)
貰うた貰うたよからかさ柄杓 貰うにゃ貰うたが合うかは知らぬ

合えばそれよし合わぬとあらば そこらここらの姉さん方の

袖や袂や絵巻の端に 隠し隠されご赦免なされ
わしが見たよな田舎のチャボが 四角四面の櫓の上で

音頭とるとはおおそれながら 長の月日の貧苦の世話に

唄も文句もみな打ち忘れ 忘れ残りのそのあらましを
しばし間は口説いちゃみよか


見えた見えたよ太夫さんが見えた 見えた太夫さんにゃ渡すが道よ

誰もどなたもお覚悟なされ 覚悟よければこの口限り
(交代する)
貰いましたよ受け取りました わしの様なる若輩者が 音頭取るのもおおそれながら
まずは一声理と乗せましょか 何がよいかと探しちゃみたが

慣れぬ私にゃ見つかりませぬ はやく出て来いよいよな文句

文句出なけりゃこの場が切れる この場切れては皆様困る
困りますればご先生にゃ返す
(先の音頭さんに返る)
貰うた貰うたよ傘貰うた わしが出します薮から笹を つけておくれよコリャ短冊を
誰もどなたもお頼み申す 文句違いや仮名間違いは 平にその儀はお許しなされ
許しなされば文句にかかる


まだもこの先ゃ千尋あれど 後にゃ太夫さんがつめかけておる

見えた音頭さんにゃ渡すが道よ 誰もどなたもお覚悟なされ

覚悟なさればこの口限り
(交代する)
先の太夫さんよ長々ご苦労 わしが貰うたよ傘貰うた 傘は貰うたが行こか知らぬ
行けばばそれよし行かぬとあらば 誰もどなたも囃子で頼む

囃子一番音頭が二番 囃子なければ口説かれませぬ

囃子つけても行かないときは 袖や袂にお隠しなされ


やれ嬉しや太夫さんが見えた わしが音頭もこの節限り
(交代する)
貰いましたよ受け取りました アラ貰うたよ唐傘柄杓

貰うにゃ貰うたが行こかは知らぬ 行けばそれよし行かぬがままよ

行かにゃ高野の石堂丸と 行けば義経千本桜
わしが文句で合うかは知らぬ 合えばそれよし合わぬがままよ

離れ駒じゃと飛ばしちゃみよか 離れ駒ならよく飛びましょが

わしの口説で飛ばないときは そこらここらの姉さま方の
袖や袂や絵巻の端に 隠し隠されご赦免なされ じなし数々延べましょよりも
ここらあたりで何やりましょか 流行る口説も様々あれど

長い夏中の忙しさゆえに 唄も文句もみなこき忘れ 忘れ残りのそのあらましを

口説きますぞえしばしの間 それじゃ皆さんお手振りゅ頼む


まだもこの先読みたいけれど 見えた見えたよ太夫さんが見えた

見えた太夫さんにゃ唐傘渡そ 渡しますぞえこの先の句で 渡しまするぞこの口限り
(交代する)
貰うた貰うたよ唐傘貰うた わしの口説は二三が四五里 四五里奥山 松の木ゃ緑