おかる口説

主も五郎衆も花嫁方も 今も生い立つ小娘方も 聞いて嗜め浮世の鏡
国を申さばこれより西よ 西は筑前遠賀の御城下 永井村には六作というて
母と一人 六作と二人 最早六作も背丈延べば 仲人頼んで嫁貰わんと 
嫁も段々数ある中に 六作嫁御と定まる人は やがて奥村ご庄屋様の
一人娘のおかるというて 嫁は十八今咲く花よ 花にたとえて申するならば
立てば芍薬 座れば牡丹 歩く姿が小坪の小百合 顔が夕菊 姿は柳
人は愛嬌が吉野の桜 弾く算盤 書く筆の先 手縫い縫物お機の道も
流行小唄や弾く三味線も 人に勝りて利巧な者よ どこに出してもひけとりゃすまい
これを貰うて嫁御にせんと 仲人勇んで貰いに上る 貰いかかればご庄屋様は
慈悲なお方でくれるとの返事 そこで仲人打ち喜んで 日にち調べて吉日選ぶ
おかる祝言正月七日 嫁に行きゃまた嫁入り道具 手箱 縫箱 鋏箱 葛篭
間にゃ雨傘 塗り桶 小桶 最早荷物も買い整えば これを床の間と飾らせおいて
ある日ご両親思いしことにゃ 今日はおかるに訓えをせんと

嫁に行きゃまた訓えがござる おかるおかると一間に呼んで

「おかるよく聞け大事なことよ 最早そなたは嫁貰われた
永井村にと縁付きなさる そちの添う人添われる人は 永井村なる六作でござる
嫁に行きゃまた殿御が大事 まして大事がお舅様よ 寺に参るも我より先に
親を拝んで仏に参れ 朝は早うからお言を申せ 昼はお茶箱お膳部までも
人にかまわず我が身でしやれ 人が来たなら煙草に煙管 つけて出すのが女の習い
隣近所の茶飲みの座でも 長茶しやるな人事言うな 人はその場で言わせておいて
表塗り替え直ぐ裏戻せ 竹の柱に茅壁つけて 石のおくどに割れ鍋かけて
茶碗で米とぐあの所帯でも 馴れぬ所帯も厭うなおかる もしも殿御に言われた時も
二度と再び帰るなおかる そなた殿御が無理言うからにゃ

無理を言ってもその手になびけ まして殿御が留守なる時は

若い男と入り交ぜするな 無理を言うてもその手にゃ乗るな
罪をかろえば末代の恥 未だも訓えは数々あれど 親の訓えは先ずこれまでよ
おかるこのこと鑑と守れ」 言えばおかるは利巧な者で 遥か下りて両手をついて
「私ゃこのこと鑑と守る 守りますぞえご両親様よ」 口と文句はさて早いもの
待てば来る来る正月七日 おかる荷物のそのとり手には 駕籠が七つにお馬が五頭
荷物とり手が三十と五人 おかる荷物の数ある中で 中で目に立つ縫物ござる
緞子布団に黒繻子打たせ 金の屏風に沈香のすさよ これはどこでも嫁入り印
最早道具も相調えば これもお馬におうたせおいて 永井村にとお送りなさる
六作宅にと早や急がるる その日祝言めでたく祝う 兎角浮世は定めなきものよ
おかる祝言そのあくる日にゃ 婿の六作が病となりぬ おかる親子は飛びたまがりて
医者や薬と早や急がるる 医者は遠賀の御典医ばかり 薬ゃ富山の膏薬盛れど
なれど病気にそのげんがない 奇病々々のその抹薬も

効くと見えねば早や願立てよ 先ずは一番お大師様よ 西は西国天満宮様よ

東ゃ大分の柞原様よ 伊勢にゃ七度熊野にゃ三度 高野山には護摩等焚かせ

愛宕山には月参りする 空の祭りは七夕様よ 星の祭りも七度すれど

するといえどもそのげんがない この身少ない六作が命

どうせこの身は無い身がゆえに 今日はおかるの心を見んと

「おかるおかる」と寝間にと呼んで 「おかるよく聞け大事なことよ

今日はそなたに暇遣る程に 家に帰りていずこへなりと

いずこなりとも縁づきなされ」 聞いておかるは飛びたまがりて
「何を言わんす我が夫様よ あなたに添うて丸七年よ 誰に一夜の情けも受けぬ
何の落ち度で暇くれやんす」 言えば六作が涙で語る

「落ち度ありゃまた今日までおかぬ」 言えばおかるが申することにゃ

「わしが嫁入り四五日前に 父と母との訓えがござる
右の話を細かに語る」 語りゃ六作も打ち喜んで 「ありゃ届いたおかるが心
我に孝より母まで孝よ 母を一人頼むぞおかる」 言うて六作のご病気は重る
おかる膝をば最期の枕 秋の稲妻 川辺の蛍 うつらうつらと眠るが如く
次第次第と往生遂げる ありゃ愛しの六作が死んだ 六作死んだとお嘆きなさる
嘆く中にもがん拵えよ 永井村なる大工や木挽き 大工木を挽きゃ人夫も雇い
紫檀黒檀唐木を寄せて 木挽きゃ木を割く大工は刻む 切りて刻んでがん拵えよ
がんは桶がん御輿の造り 四方隅には燕をはわせ がんの上には冥土の鳥を
なれど六作は宗派が違う 六作宗派は天台宗よ 天に天幕地に四方幕
被衣被りが三十と五人 釈迦の御弟子が七十と五人 頭巾坊主はその数知れぬ 
永井村なる爺さん婆さん 孫に手引かれ杖にと縋り 今日は世に立つ花嫁方も
六作弔い参らんものと 我も我もとお参りなさる 続き続きてお参りなさる
旗や天蓋両龍までも なげし五反の前綱引かせ 風に靡かせ野辺にと送る
野辺に行きゃまた野辺経あげる 野辺経終れば焼香なさる

一の焼香はおかるがなさる 二番焼香は母上様よ 七つ下れば弔い終わる

六作弔い先ず穏やかに 弔い終えば皆人々は 我も我もと皆立ち帰る

おかる親子も我が家と帰る 家に帰りて弔いなさる 七日七日と弔い過ぎて

四十九日の寺詣なさる そこで母上思いしことにゃ 今はおかるの心を見んと

「おかるおかる」と一間に呼んで 「おかるよく聞け大事なことよ

息子六作もあの病にて 田地田畑皆売り払い 屋台家財と皆売り払い

そなた荷物も皆売り払い」 言えばおかるは利巧な者で 「あとに残るは櫛笄よ

これも売ります鉄漿代に」 これも町にと売りにと行って 十や二十の金等儲け

四十九日の寺参りする 四十九日はさて百箇日 百箇日なる弔い日には

蝶よ花よと延べたる髪を 元結際よりぷつりと切って 一把二把なる束にと結うて

これを町にと売りにと行って 十や二十の金等儲け 百箇日なる弔いなさる

そこで憐れがおかるが親子 朝の煙もほど立ち兼ねる ある日おかるが山にと登り

山に登りて落葉を掻いて 落ち葉掻いては薪をば拾う 一把二把なる束にと結うて

これを町にと売りにと行って 十や二十の金等儲け そこで母上育みなさる

母は育みその嬉しさに 「寒の師走も陽の六月も 明けて霜夜の嵐の夜でも

苦にも毒にもわしゃ厭やせぬ」 人は言わねど天知る地知る

風の便りでお上に聞こえ お上聞くより検使が立ちて おかる呼べとのお言葉下る
これに従う下役人よ 足にゃ白足袋厚皮雪駄 御用袴の裾引きからげ
おかる館と早やなるならば おかる殿には御前が御用 言葉言い捨て早や立ち帰る
後でおかるも打ち驚いて 昨日や一昨日今日今までも

身には落ち度の覚えはないが 落ち葉掻いたるその咎しめか

何はともあれ上りてみんと 着物着替えず髪そのままに 恐れ恐れと御前に上る

一の門越え二の門越えて 三の門越え玄関先に 玄関先にと両手をついて

「申し上げます我が君様よ 御用筋あるおかるが君に 御用いかがと伺いまする」

言えば御前は御簾巻き上げて 「おかる殿とはそなたのことか

聞けばそなたは孝行者よ」 親に孝にと褒美が下る 時に褒美で米千俵
化粧田地が七反七畝 白木三方に小判を載せて 少しばかりの小遣い銭と
おかる前にと差し出しまする おかる手に取り押し戴いて お礼申して我が家と帰る
家に帰りて母上様に 右の様子を細かに語る 語りゃ母上打ち喜んで
親に孝心さて良いものよ 始の長者と相なりまする 千秋万端先ずこれまでよ