お千代義平口説

義理という字は何から生える 思い合うたる種から生える 情死情死と世に多けれど
例少ない今度の情死 国はいづこと尋ねて訊けば 豊前企救郡 能行村に
知らぬ筈ない有徳なお人 道理分かりし陸右衛門さんは 田地財産有り余れども
ままにならぬが浮世のならい 世継ぎないのが一つの不足

あちらこちらに養子をさがす ここに筑前遠賀の郡 昔大内何某様と

言われなさった御人なれど 今は百姓を稼業となされ 小作作りの貧しき暮らし

それに数多の子供が御座る 末の息子を義平といいうて

これを養子に貰うてやろと 人の勧めに陸右衛門さんは
日柄選んで縁組なさる 昔名高い侍なれば 血筋あらわすその名も義平
利巧発明世の常ならず 器量は吉野の若木の桜 花も色増す二十一の年
袖の振り合い見返る人も 心かけ茶屋 縁でもあれば かけて見たがる数多の人よ
中にすぐれし一人の娘 これは村内五平次さんの 蝶よ花よとお育てなさる
末を祝してお千代と名付け 色香含みしその面影は 白い牡丹に薄紅差して
姿とりなす緑の柳 風に靡くよな装いなれば 小野小町か弁天様か
絵にも勝ると世間の噂 これが義平に心を寄せて 迷い初めたが中秋の頃
枕一つで眠りもやらで 恋し恋しのあの義平様 かげの案じもよも白菊の
露の情けに実は蛍火の 昼は消えつつ夜は夜もすがら かげに付き添う因果の車
手管求めて語らんものと 恋の糸口ほころびかける 手繰り寄せたい心の丈も
君は知るまいさて何としょう すぐに言わんもいと恥ずかしく 何と詮方八幡菩薩
どうぞこの恋叶えてたもれ 夜毎日毎に参りて頼む されば例えに言うたる通り
思いある矢は石にも立つと 義平この頃お千代を慕い これも夜な夜な八幡参り
み終わりてかたえを見れば 神の御前に一人の娘 義平怪しみ透かしてみれば
慕うお千代の面差故に 「そこに居るのはお千代じゃないか

水も音せぬこの真夜中に そなた一人で何しに来たか」

問えばお千代は恥ずかしそうに 両の袂で顔押し隠し

「義平さんかやあら恥ずかしや 何を隠さんこうなるからは

わしはあなたに命を懸けて 頼みあげたい一事がござる

言うに言われず詮方なさに ここのお宮に誓いをかけた」
さてもその内二人の君は 朝な夕なに顔見合わせて 心楽しく日を送るうち
月に群雲花には嵐 恋の邪魔する名は淀助と これは村中の若衆頭
お千代我が手に落とさんものと 邪魔の張弓横矢の恋慕

忍ぶ垣根にお千代を呼んで 「わしはお前にほうれん草よ

胸は文字ずり心は乱れ 下の道草文踏み枯らせども
いつも来るたび恥杜若 応といわんせ撫子の花」