松治口説

国は筑前 博多の町よ そこに威徳な権佐というて 権佐子供が姉弟ござる
姉のお鶴に弟の松治 辛いことには継母がかり 来たる継母連子がござる
連れた我が子に世がくれとして 夜の夜中に権佐を起こす

「もし権佐さん暇くだしゃんせ」 「昨日や一昨日今日来た者が

暇をくれとは合点が行かぬ 家が嫌いか権佐が嫌か」
「家は好きます権佐にゃ惚れる 二人子供をわしゃ好きません」

「好かんところを三年待てよ 姉のお鶴が十三なれば 姉のお鶴は嫁にも遣ろう」

「弟松治が十にもなれば 弟松治は養子にやろよ」

「そんなことすりゃ物入りごとよ そんなことより殺してしまえ
姉のお鶴はそなたが殺せ 深山奥山鉄砲の矢玉 弟松治は私が殺す
釜に湯を立て茹で殺します」 そこで二人は誰知るまいと

思うていたのにお鶴が聞いた 夜の夜中の五つの頃に 姉のお鶴が皆聞きました 朝は早起き松治を起こす 「松治起きなれ髪結うてあげよ

髪を結うたらお墓に参る 今日はお母さんの祥月ほどにゃ」
左御手に花篭提げて 急ぎゃ間もなくお墓に着いた お墓前にて両手をついて
「わしと松治は今殺さるる 死んだ母さん生あるならば 弟松治は世取じゃほどに
弟松治を助けておくれ わしはもとより他所行く身分」 お鶴立てたる線香は立つが
松治立てたる線香は立たぬ 松治線香にゃ不思議がござる

そこで松治が申せしことにゃ 「もし姉さん帰ろじゃないか

帰り遅けりゃもう継母が 遅い遅いとお叱りなさる」
うちに帰ればもう継母が 「お鶴そなたは大儀であるが 大儀ながらも弁当を頼む
持って行きなれシバガラ山へ」 左御手に弁当持ちて 右の御手にやかんを提げて
やがて近所に庄屋がござる お庄屋後ろの柴垣陰で 涙ほろほろしくしく泣けば
やがて庄屋が聞きつけまして 「そこで泣くのはお鶴じゃないか

お鶴そなたは何泣きますか」 そこでお鶴が細かに話す そこで庄屋が聞き驚いて お鶴手に取り権佐が館 「今日の暑いのに何してなさる」

言えば継母申せしことにゃ 「新規所帯で味噌絶えました」
「味噌の豆ならわしゃ大好きよ 七里行ってさえ帰りて食べる」

そこで継母申せしことにゃ 「今ぞかけたるアオサぞ消える」

言えば庄屋が申せしことにゃ 「煮豆生き豆せを打ちかけて

馬のだはみにわしゃ大好きよ どうせお前が食べさせなけりゃ

茶碗ゆすいでしゃもじを握る」 釜の蓋取りゃ松治が姿

上や下にとでんぐり返る そこで継母ヤレたまらずに
手桶引っ提げ裏門出掛け 逃げて間もなく追いつきました 上の役人三十五人
上る者にも一挽き頼む 下る者にも一挽き頼む 七日七夜は筍挽きよ
八日ぶりにて首挽き落とす 憎や継母我が身の詰まり