魚津小町口説

頃は八月 日は十五日 お墓参りで和尚様見染め 見染め合い染め念かけ染める
文を渡そと苦労の末に 鹿の巻き筆 五色の紙に おしげ想いを残らず書いて
書いて包んで状箱に入れる 文の遣いを番頭に頼む さあさお願い円乗寺様へ
夜のこととて大門閉まり 声を張り上げ和尚様呼んで 用事ありげに状箱渡す
待てど暮らせど返事がないぞ 我慢しかねて恋するおしげ

逢いたい見たいのその一念が 暗い夜道の霧草分けて 夏のことなら雨戸も立たぬ

藍の唐紙さらりと開ける 「和尚和尚」と二声三声 和尚聞きつけ枕を上げて

「夜中めがけて起こすは誰じゃ」 「迷いでもない変化でもない

文を渡いたおしげでござる 和尚よう聞けよう聞かしゃんせ
文の書き数七十や五文 書いて渡せど返事もないが 返事ないので我慢がならん
高い山にも届かぬつつじ 咲いて乱れることさえあるぞ 川原柳は何見てなびく
水の出端でひそひそなびく 私ゃ和尚の心になびく 通うて落ちねば迷うて落とす」
そこで和尚の申することにゃ 「おしげよう聞けよう聞かしゃんせ

七つ八つで小僧となりて 和尚よ和尚よと呼ばれるまでに

如何に苦労や重ねしものか おしげお前と色恋なれば 長い苦労も終わりとなりて

寺を追われる挙句の果てに 無見地獄に落ちるが嫌じゃ

お前と添う気は更々ないよ」 そこでおしげの申することに

「たとえ地獄に沈もうとままよ かけた念力落とさにゃおかん

どうぞそこの世で添われぬならば 裏の川へと身を投げ捨てて
三十五尋の変化となりて お前落とさにゃ心が済まん どうぞ私と夫婦の契り
両手合わせて頭を下げる」 今は和尚も詮方なしに 嘘の言葉でおしげを返す
後で手早く荷物をまとめ 人に隠れて夜の間に逃げる 寺を離れて七日の後に
和尚逃げたる噂が立ちて おしげ狂乱心も乱れ 天を仰いで大地をたたき
声を哀れに唯泣くばかり