見真大師口説

天津小屋根の命の末に 氏は藤原有頼郷の 御嫡男子に松若君と
利功発明が世に並びなき 輿や車で世をましませば 君に仕えて栄華を極め
雲に近づき御身の上が 早く此の世の無情と悟り 御年九才の春三月に
玉の御殿を立ち出で給い 粟田口なる青連院の 滋鎮和尚の身元に参り
明日と延さぬこの世の無情 咲いた桜も今宵のうちに 夜半の嵐に吹き落とされる
これを思えば片時も早く 出家得度をして給われんと

言われて師匠も理につまされて 夜の半ばに得度をなさる

竹と等しき緑の髪を おそり給うぞ御いたわしや
綾や錦を脱ぎ捨て給え 墨の衣で御身をやつし さればこれから仏道修行
音に名高い比叡の山の 峰に登りて菩提を求め 昼は終日夜は夜もすがら
月の光や蛍を集め お経読書に御心やつし どうぞ末世の悪人女人
悟る御法を学ばんものと 修行すれども悟りは見えず そこで御身に思案を極め
とても末世の悪人女人 こんなことでは悟に行けぬ ただで助かる御法があれば
教え給えと神々様に 願をかけれどその甲斐もなく そこで泣く泣く六角堂の
堂の板間に御手をついて 願い上げます観音様よ どうぞ末世の悪人女人
ただで助かる稔があれば 共に衆生と手を引き合わせ 花の浄土へ参らんものぞ
真の知識に合わせて給え 毎夜毎夜の歩みをなさる 百夜満ずるその暁に
不思議成るかやお告げを受ける 真に尊や観音様よ 誠たえなるお声をあげて
「真の知識に会いたいならば 都吉水圓光大師 それに参りて悟を聞け」と
至厳新たなその御託施に されば比叡の御山を下る 二十九才のその御年に
真の知識の御許に参り 他力本願真の誓い 上は等覚弥勒をはじめ
下は在家の悪人女人 知恵も力も修行もいらぬ 己が自力の計いやめて
弥陀に任せる唯一念に 永く生死の迷いを離れ 君に忠義は先ず第一に
親に孝行忘れぬように 夫婦仲良く兄弟仲も 人に不実は致さぬように
国の大事と家業に励み 御恩よろこび只ひたすらに 弥陀の本願誠の誓い
深く他力の佛智を信じ これを衆生に教えんために されば吾が祖師見真大師
衆生済度の方便なさる ここに一つの幸いごとは 九条関白兼実郷の
一人娘に玉日の宮と 歳は二十で花なら蕾 智恵と慈悲とが身に現れて
他郷に勝れし天下の美女 それもその筈御地を問えば 慈悲の功徳の観音菩薩
父の関白兼実郷は 深く他力を信仰なさる 在家衆生の身であり乍ら
弥陀のお慈悲で助かる事に 微麈いささか間違いなくば 私に一人の娘がござる
在家衆生を導くために 時に吉水上人様よ 数多御弟子のあるその中に
一人養子に仕われ給え これが私の一期の願い そこで法然上人様は
我が祖聖人一間に呼んで どうか在家を済度のために 九条殿家に養子に行けと
重き使命を蒙り給う 在家衆生にその身をやつし 妻や子供の手を引き乍ら
五障三障さわりの身でも 弥陀を信ずる唯一念に 無情涅槃の悟に上る
他力修行の大道開く かかる尊き御教えなれば 上は万栄雲井の君も 
後生菩提は南無阿弥陀仏 これに勝れし教えはないと 信じ給うぞ御いたわしや
下は賤しき衆生の身でも 風に草木のなびくが如く 衆生済度のその御慈悲が
今じゃ御身の不幸と転じ それは如何なる訳じゃと問えば

諸寺や諸山の自力の人が 他力不思議に繁昌するを

妬み嫉んで両上人を 土佐と越後に御左遷なさる
やがて五年の刑をばおりて これが念仏引通いの基 それもその筈御地を問えば
四十八願成就の如来 衆生済度に御身をやつし 智慧の光を与えし給い
そこで悪人凡夫の者が 功徳功徳と御名を名乗り 凡夫仲間に落ちぶれ給え
そこで和国の聖徳太子 深く尊敬まします給い 弥陀の化身と賛嘆なさる
衆生化益にお出向き給う 如何にお慈悲の身と言いながら 輿や車の御身の上が
竹の小笠に御杖ついて 蒲の巾木に草鞋をしめて 日野左ヱ門が済度のために
積る白雪褥となさる 石を枕に艱難辛苦 総二十年の住居をなさる
百姓豪族家族と語り 南無阿弥陀仏と唱えていけば

「仏のお慈悲にあずかるのだ」と 命授けて貰わることの

有難さをば説き知らせつつ 「人間皆が平等である」と
見真大師力説される 広い関東の平野の角で 民が心に救いを持たせ
南無阿弥陀仏の念仏教え 時に見真五十二の年に 浄土真宗がうち立てられる
唱えまいかや南無阿弥陀仏 唱えまいかや南無阿弥陀仏