伊勢屋口説

国は豊後の高田の御城下 御城下本町繁昌な所 角の伊勢屋という町人は
胆が太うて大事を好む 一にゃ豊後の鉱山掘ると 九百九人の人夫を集め
掘るも掘ったか三年三月 金は出でずにただ土ばかり 二番目にゃまた日向にまわり
日向殿様お金を借りて 西や東の木こりを集め 桧千石 樺千石よ
それを都に積み出ださんと 思う折しも山汐出でて 伐った材木皆悉く
行方知れずに押し流された 三度目にゃ又火災に遇うて 家も系図も皆焼け失せて
残るものとて石杖ばかり さすが伊勢屋も哀れな次第 裏屋 背戸屋の借家の住まい
朝の煙も程立てかねる 伊勢屋子供が姉妹ござる 姉のお初は十六歳で
妹お菊は十三歳よ 姉のお初の申することにゃ 「わしとお前のこの町さがり
水仕奉公致してなりと 二人親御を養いましょうよ」 妹お菊の申することにゃ
「昨日一昨日今日今までも 伊勢屋娘と言われし者が

よその身奉公に使われましょか わしとお前の黒髪切って

切ったその髪 髪文字に売って 二人親御を養いましょよ」
言えばお初もその気になりて 寺に参りて和尚さんに頼む

寺の和尚さん申することにゃ 「親に孝行も数々あれど こんな孝行は今度が初め」

奥の人間に二人を入れて 文字四郎という剃刀で 一つ剃りては南無阿弥陀仏

二つ剃りては法華経を唱え 四方浄土に髪剃り落とす 姉の髪文字が七竿八竿

妹髪文字が七竿八竿 髪文字髪文字と町売り歩く