番町皿屋敷

世にも名高き怪談口説 ところ青山鉄山館 そのや鉄山悪心なるが
王家細川横領せんと 巧み合わせし弟忠太 二人こそこそ毒薬盛りて
庭の泉水流さんものと 示し合わするその折からに 皿箱携え来かかるお菊
さては誰やら足音いたす 様子確かにお菊が聞けば そのや大事の悪巧みをば
鉄山兄弟企むことと 皿箱渡して行かんとするを 鉄山しばしとお菊を呼びて
「これさお菊よ用事というは 外のことでもござらぬなれど そちはただ今忠太が言うた
話残らず聞きゃったことか」 言えばお菊は発明ながら 心正直素直なゆえに
「うかと聞いた」と云うたることが 終にその身の破滅でござる

それを聞いたる鉄山こそは 胸の内には驚きたれど

そこは怒りを色にも出さず 「忠太そなたもこの大切な
お皿拝見いたさすほどに 手水使うて清めてござれ」 言えば忠太もその気になりて
お菊諸共井筒のもとへ 行くや遅しと鉄山こそは 箱の中なるお菊の重器
皿を一枚こっそと盗み 知らぬ顔して待つそのとこへ 忠太お菊は早帰ります
「もうし鉄山宝のお皿 拝見いたさせ下さりませよ」 言えば鉄山指図をいたし
「お菊そなたが持て来たものぞ 早く紐解き数検めよ」 それが我が身の仇とは知らず
一枚二枚と数えていけど 箱の底まで調べてみても 数は十枚ござらぬゆえに
またも数をば検めみるに 数は揃わん九枚の皿よ 「さても不思議よ鉄山様よ
たった今でも御膳に置いて 数は揃うたお家の宝 殊に殿様封印切って
わしが十枚数をば読んで 受け取り来たのが一枚足らぬ」 そのや鉄山驚き顔に
「これほど大事なお家の宝 それが九枚と端の数は 何のことかや誰すむことか
お菊そなたは命がないぞ きっと途中で一枚盗み 我に罪をばなすらんためか
憎い女ぞそのままおかぬ」 側に忠太は訳さえ知らで 「もうし鉄山お菊が望み
一度お前も数読ましゃんせ」 数を読むのは容易いことと 又も取り出すあの皿箱を
さても鉄山膝立て直し 「幾ら読んでも幾たび読むも 数の不足は出て来ぬはずよ
されど不審と思わんならば 我が自分で検めくれん これよお菊よよく気を止めて
俺の印数をよく聞かさんせ」 「あい」とお菊も恨めしそうに

箱の皿にと目をつけまする 哀れなるかやひいふうみいと

八つ九つ十とは云わぬ 「お菊命の瀬戸際なるぞ
覚悟いたせ」と鉄山こそは 刀すらりと切りつけまする それぞ大事とお菊は後へ
「きゃっ」と飛び退き「鉄山様よ 合点参らぬあの皿の数 これには何ぞ仔細があろに
心得違いのないとも知れず しかと詮議をいたした上に どうぞ不憫」と逃げ回れども
相手といたすは鉄山なれば 終に敵わず追い詰められて 憐れなるかよ斬り付けらる
声を限りにお菊の言葉 「もうしこれいな鉄山様よ 詮議もいたさず殺すというは
御家老様にも似合わぬ仕儀よ 死ぬるこの身を厭いはせねど

殿様ばかりがどうにも難儀 どうぞ今際に我が夫様の

三平殿にと一目でよいが 会わせて下されお慈悲じゃもし
それでなければま一度皿の 数を読ませて下さりませよ」 そのや鉄山にたりと笑い
「いくら吠えても叫んだとても 願い叶わぬ未練な女 今にそなたの夫と頼む
そのや三平もまずこの通り」 憎や鉄山 弟の忠太 末は怨みで皆殺し