白滝口説

国の始まりゃ大和の国よ 島の始まりゃ淡路の島よ 神の始まり鹿島の神よ
縁を結ぶは出雲の神よ 縁は不思議なものにてござる 父は横萩豊成郷の
姉は当麻の中将の姫よ 妹白滝二八の年に 器量がよいとて御目にとまり
一の后に供わりまする 摂州津の国山田が村の 利佐衛門とて賢い人よ
内裏白洲の夫に出される ある日小庭の掃除をなさる 塵を拾うもその日の勤め
頃は六月下旬の頃よ 御簾を恋風吹きまくられる 一の后の白滝様の
一人丸寝の御寝姿を ちらと見初めてはや恋となる 恋はもろこし天竺までも
彼方此方にもれ聞こえして 御上様にとお耳に入る そこで山田は御用に呼ばれ
御用と呼ばるりゃ行かねばならぬ 一の門越え二の門越えて

玄関口にて両手をついて 「御用いかに」と伺いければ

御上様より仰せの御意に 「高き賎しき隔てはいらぬ
一生連れ添う歌詠むならば 望み叶えて得させぬものと さあさ詠め詠め山田の男」
言えば利佐衛がさて申すには 「なんぼ御上の水じゃといえど 下より上に流れまい
上から下に流れ行く 詠んで下されその下の句は」 言えば白滝理に詰められて
すぐに白滝歌詠みかける 「雲谷の 雲谷の 雲より高きこの白滝に
情けかけるな山田の男 山田くらいに及ばぬ恋を 山田烏」と詠み下げまする
利佐衛門とて賢い人よ すぐにその歌詠み返すには 「稲月の 稲月の
稲葉の露に恋焦がれして お日は照る照る山田は枯れる

これほど山田が枯れるのに 落ちて助けよ白滝の水

水よ落ちよ」と詠み上げまする これを聞いたる御上様は
「あまりこの歌名歌であれば 床に飾れば床絵のごとく 後代伝わる御巻物と
守り刀は婚引出物 利佐が女房と名を付け分ける」 言えば山田はうち喜んで
連れて山田に落ち入りなさる 連れて山田に落ち入るときに

山田その田に不思議がござる 低きところに水たまらずに

高きところに水たまりして いつがいつまで湧き出る露を

鶴は千年亀万年と お前百までわしゃ九十九まで ともに白髪の生えゆくまでと
祝い込んだる山田の里よ さてもめでたや若松様は 枝も栄えて葉も繁る