大志生木盆踊り

はじめに

 佐賀関町では、2013年現在、大々的な広域の「盆踊り大会」は開かれていないが、集落ごとに供養踊りを実施している。集落ごとに踊りが少しずつ異なるが、1箇所で踊る踊りは1種類から4種類程度で、そう多くはない。しかし盆踊りはそれなりに盛んで、殆どの集落で地域の方の生の音頭と太鼓に合わせて踊っている。各集落ともかなり遅くまで踊ることが多いし、櫓の四方にたくさんの短冊を飾り立てた竹を立ててあったり、踊りの輪の中心にゴザを延べて初盆家庭の方が座り、遺影や位牌を長机に並べるなど、海部地方沿岸部の特徴がよく残っている。

 中でも大志生木地区では供養踊りに加えて、8月18日には観音様の踊りも実施しており、参加者も多い。生憎当地の供養踊りには行ったことがないが、観音様の踊りには行ったことがあるので、わかる範囲で大志生木地区の盆踊りの概要をまとめておく。

概要

 大志生地区では、公民館の前の広場で寄せ踊りをしている。踊りの種類は三勝と祭文の2種類。町内の他地域においては盆踊りの最終に、踊り方はそのままに唄のみを「切り音頭」とか「きそん」と呼ばれる唄に切り替えることもあるが、当地においては「切り音頭(きそん)」は伝承されていない由。

 観音様踊りのときは三勝で踊り始めて、ひとしきり踊って中入れ(休憩)。再度三勝で輪を立て、途中で祭文に切り替えて終了であったと記憶している。所要時間は1時間半程度だったと思う。大分県内において音頭取りは男性である例が多いが(もちろんその限りではない)、ここでは女性の口説手も櫓に上がり、かなりお上手だった。三勝も祭文も、素朴な唄で、踊り方も易しい。老若男女、誰でも気軽に楽しく踊れる踊りである。

 近隣地域では何と言っても鶴崎踊りが有名である。佐賀関町内においても馬場地区など大分市坂ノ市に近い地域の踊りはその影響が顕著だが、大志生木の踊りはあまりその影響を受けておらず、昔ながらの古い唄と踊りがよく残っている。生活に根ざした地区の年中行事で、派手ではないが、地域の方々に大切に受け継がれている。

各踊りの特徴

三勝

 

 三勝という盆踊り唄は大分県内のあちこちに残っているが、地域ごとに節回しが全く異なり、全部が同系統だとは到底思えない。そもそも「三勝(さんかつ)」という名前の由来がよくわからない。県内の沿岸部に限って言えば、大分市坂ノ市から津久見市にかけて踊られているが、その節回しや踊り方がまるで異なる。大志生木の三勝は、坂ノ市の三勝とも、佐賀関町一尺屋の三勝とも全く異なる。また、一尺屋の先の、臼杵の三勝は大野地方の「エイガサー節」だし、津久見の三勝は臼杵の「祭文」である。こうなると、元々の踊りや唄は全くの別物であり、何かのきっかけに「三勝」の名前だけが一人歩きし各地の踊りをどれもこれも「三勝」と呼んだのではないかとも思えるほどである。

 なんだかよくわからない「三勝」だが、大志生のものはのんびりした雰囲気の、田舎風の節回しで、郷愁を誘うようななかなかよい節だと思う。段物を延々と口説くのだが、中でも「葛の葉の子別れ」が人気のようだ。段物に入る前の枕音頭にもよい文句があって、「鯛の刺身で酒飲むような、うまいうまいじゃやれないけれど」などの謙遜の文句が特に印象に残っている。

 踊り方も独特で、坂ノ市のものとはまるで異なる。右に小さく捨てて、数歩進んでガッツポーズをするかのように両手を振り上げて落とし、右、左、右と振り返るように大きく後ろに手を回して流しながらナンバでさがるような踊り方だった。手拍子が一切ない。地元の方との会話の中で、「ここの三勝は佐賀関の中でもちょっと違う」というようなことを聞いた。佐賀関町内の全部の踊りを知っているわけではないが、確かにあまり見ない踊り方だった。

祭文

 

 ここの祭文は鶴崎踊りのものと同種の節回しだが、あれよりもずっと素朴で自由奔放な印象。たとえば鶴崎踊りのものは三味線等を伴奏に使い、上の句の音引き部分のコラサノサとかホホンホーといった囃子を排除しているのに対して、ここでは伴奏が太鼓だけなのでホホイノホイという囃子が残っている。テンポは遅いが一部がやや弾んだ感じの節回しで、何となく浮かれた雰囲気がある。

 また、踊りが弾むと数節ごとにイレコを挟むのだが、何ともおおらかな文句が多く、踊り手の間から思わず笑い声が漏れることもある。近年こういったバレ唄的な文句は排除される傾向にあるが、当地の祭文は民衆のはやり唄としての性格を色濃く残していると言えるだろう。

 踊り方は鶴崎の「三つ拍子祭文」と同種のものだが、やはりあれよりも素朴な雰囲気。その場で手拍子してかいぐりで進み手拍子し、握った両腕を伸ばしてぶらぶらと開いたり閉じたりするような踊り方だった。握った手を伸ばして開いたり閉じたりするのは、確か郡上踊りにも似たような所作があったような気がするが、大分の踊りではわりと珍しい踊り方だと思う。 

おわりに

 当地の観音様踊りに行ってみて、唄の節や踊りの所作は、大字レベル、集落レベルで大きく異なるということを改めて感じた。今、県内各地で地踊りの伝承が困難になりつつあるが、伝承が途絶えないうちに各地の地踊りを比較して考察することはそれなりに価値があるだろうと思い、自分なりに少しずつやってきたつもりだが、大枠で捉えるだけでなく小さな範囲の中での違いを見出すことも忘れないようにしたい。また個人的な趣味から唄の節や踊りの所作などに注目しがちだが、それだけでなく供養踊りや地蔵踊りなどのいろいろな盆踊りに伴う行事(たとえば精霊流しとか虫送りなど)にももっと注目する必要があると思う。しかし、知識の乏しさからそこまで行き着けないのが現状だ。

 地踊りの価値は、賑やかさとか踊りの種類の多さだけでは決してないと思う。大志生木の地踊りは地味だし種類も少ないが、地域の年中行事として行われているという点でとても価値が高い。

大志生木の盆踊り唄一覧

 

「三勝」
☆アー 鯛の刺身で酒飲むように(ヨイヤセーコリャセー)
 アラ ヨーヤナレーデー 酒飲むように(アラヨーイヤセー ヤートセ)
☆うまいうまいじゃいかないけれど いかないけれど

 

「祭文」
☆あの娘かわいや コラ牡丹餅顔よ ホホイノホイ(アヨイショヨイショ)
 黄粉つけたら コラなおかわい(ソレーヤ ソレーヤ ヤトヤンソレナー)
☆別府湯の街 温泉街よ 一夜千両のお湯が湧く
△一合升 二合升 三合升(アヨイショ) 四合升 五合升 六合升(アヨイショ)
 七合升 八合升 九合升(アヨイショ) 私とあなたは一升升(アヨイショ)
 一緒になれば寝られます(アヨイショ) 寝れば布団がふくれます(アヨイショ)
 ふくれりゃピョンコピョンコ動きます(アヨイショ)
 動けば黄汁がこぼれます(アヨイショ) こぼれりゃ布団が汚れます(アヨイショ)
 汚れりゃおっかさんに叱られる(アヨイショ)
 朝も早うから コラ布団の丸洗い(ソレーヤ ソレーヤ ヤトヤンソレナー)