野津市盆踊り

1、はじめに

 

 野津の盆踊りを紹介しようと思ったのだが、旧野津市村にあたる地域の盆踊りしか行ったことがないので、とりあえず旧野津市村域の盆踊りについてまとめておきたい。いつか川登や南野津の盆踊りに行く機会があれば、野津の盆踊りの記事として書き直そうと思う(川登・南野津の踊りも野津市と同じで、西神野のみ異なる旨をコメントいただいた)。なお、単に野津市というと、大字野津市をさすのか、旧野津市村域をさすのかが判然としない上に、「大分市」「別府市」などのように「野津市(のつし)」と読み違える原因にもなるので、この記事では以下、野津市村と表記することにする。

 野津市村は、野津町の中心地域。野津町は現在臼杵市(北海部地方)の一部になっているが、もともとは大野郡だった。経済的にも臼杵との結び付きは昔から強かったのだろう、野津市村の盆踊りは、臼杵の盆踊りの特徴と、大野地方の盆踊りの特徴が混じったものになっている。

 現在、お盆期間に集落ごとに供養踊りをしているほか、毎年8月の最終土曜日あるいは9月の第1土曜日に、商工会主催の「八朔踊り大会(懸賞踊り)」も開催されている。集落ごとの踊りは小規模だが、八朔踊り大会にはそれなりに人が集まっており、盆踊り保存会の活動もあって、野津市村の盆踊りはまずまずの勢いを保っているといえるだろう。

 

2、概要

 

 当地域には、お夏、祭文(ハンカチ踊り)、三重節、由来(三勝)、切り上げ(きそん)の、計5種類の盆踊り唄が伝わっており、普通はこの順番に踊っている。三重節には「イレコ」を挿むことがある。このうち由来と切り上げは同じ踊り方なので、踊り方としては4種類ということになる。大抵1時間程度、休憩を入れずに踊ってお開きとすることが多いようだ。

 各踊りの詳細は次項に譲るが、由来以外は15呼間程度で一巡する踊り方で、慣れるとどうということはないが、他地方出身者にはいささかハードルが高い。どの踊りにも、両手を左右対称に弧を描くように振り上げながら右足を蹴り出し、左足を前に踏み込みながら両手を振り下ろして手拍子を打つと同時にまた振り上げ、右足に体重を戻す(逆もあり)という所作が頻繁に出てくる。この所作を繰り返しながら前を向いたり後ろを向いたりする一連の動きは、大野地方の盆踊りに広く見られる特徴。同じ大野地方でも、朝地町などでは足を蹴り出さずに束足で止めて踊るが、野津市村の踊り方はそれに比べると足運びがやや荒っぽい。両手を振り上げ振り下ろす所作も大きめで、臼杵の踊りと比べてもずいぶん田舎風である。ただし、ただ両手を振り上げたり振り下ろしたりするだけでなく、その度に手首を返すので、決して大雑把ではなく見た目はしなやかで、きれいな印象を受ける。全体的に手の動きが忙しいので、完全に覚えるまでは戸惑う。特に三重節は手数が多いこともあってなかなか難しい。

 伴奏は太鼓のみで、踊りの切り替えの際に全く途切れることなく、なめらかに切り替わる。これは大野・速見・国東・宇佐地方など大分県下の広範囲に亙ってみられる特徴だが、この地域では5つの盆踊り唄が全て同じテンポ・リズムであるために、切り替えが特になめらか。しかも、他地方においては下の句のお囃子の後で次の唄の音頭に切り替わるのに対して、ここでは下の句の音頭の後を次の唄の囃子で受けてそのまま切り替えるため、唄と唄の境目が曖昧になっている。おまけにどの踊りも似通った所作が多いため、踊り手の方も大きく混乱することなく次の踊りに移行し易く、次の踊りにかわっても踊りがよく揃う。5種類の唄全てにおいて唄と踊りが完全に一致しておらず、どこからでも踊り始められるのに、踊りが切り替わるとすぐに全体が揃うのはなかなかおもしろい。たとえば山香町では、三つ拍子など唄と踊りが完全に一致しているものはよいとして、二つ拍子など唄と踊りがずれていく踊りのときは、その踊りにかわってからしばらく時間が立つまで、どうしても一つの輪の中で踊がずれてしまうことがよくある。それが、野津市村ではほとんど見られない。

 

 (切り替えの例)

 ・山香町 「三つ拍子」から「二つ拍子」に切り替えるとき

   「三つ拍子」

   ☆いやさー皆さん切り替えましょか(オイサオイサ)

    ヨイカナ切り替えましょか(ヤーレサッサ ドッコイショ)

   ☆覚悟よければこの節限り(オイサオイサ)

    ヨイカナこの節限り(ヤーレサッサ ドッコイショ)

   「二つ拍子」

   ☆二つ拍子でまずしばらくは…

  このように、山香町では上の句の音頭から次の唄に切り替える。

 

 ・野津市村 「お夏」から「祭文」に切り替えるとき

   「お夏」

   ☆踊る方々 アラ心得なされヨー 次の(ハーイヤコラサイサイ)

    アラよやしょで祭文にかゆる(アラ ヤンソレナッサー ドッコイサノサ)

   ☆太鼓打つ方 アラよく聞きなされヨー 次の(ハーイヤコラサイサイ)

    アラよやしょで祭文にかゆる

   「祭文」

    (ソラー ヤットセー ヤットセ)

   ☆かえたかえたよ 祭文にゃかえた…

  このように、野津市村では下の句の囃子から次の唄に切り替える。

 

 どの踊りも、速くもなく遅くもなく、疲れずに踊れる適度なテンポ。太鼓の叩き方は、ワクをたくさん打つ、わりと賑やかな叩き方。唄の節回しは個人差が大きく、特に祭文に至っては陰旋法の人もいれば陽旋法の人もいるし、中には途中で節回しを変えながら唄う人も見られる。三重節も個人差が顕著。どの節が絶対に正しいというわけではなく、生まれ育った地域も影響しているだろうし、個々人の工夫もあるのだろう。どの唄も細かい節回し(5連符)が多く、節の上り下りが頻繁で、変化に富んでいる。三重節を除く4種類は臼杵と共通の唄だが、野津市村の唄の方が田舎風な印象を受ける。ただし節回しは野津市村の方がずっと細かく、難度はやや高い。最後の「切り上げ」を除いて全て段物口説で、地元を舞台にした「二孝女口説」が延々と口説かれることが多い。この口説はそれなりに分量もある上に筋がおもしろく、人気が高い。近隣市町村においてもよく知られている。

 

3、各踊りの特徴

 

 まず「お夏」だが、なかなか風変わりな名前だ。一般に、「お夏、夏、夏、夏吊る蚊帳は…」とか「お夏、夏、夏、夏かたびらよ…」の文句で唄い始めることが多いので、その唄い出しをとって「お夏」と呼んでいると考えられるが、或いは、「二孝女口説」の流行以前はこの唄に乗せて「お夏清十郎」を口説いていたのでそう呼んだのかもしれない。この唄は野津町を中心に臼杵市、犬飼町、千歳村に残っている。囃子の「ヤンソレナーサードッコイサノサ」を、「お月さんがちょいと出て松の陰」などの唄囃子に置き換えることが多いが、そんな遊び心が生まれるほどに昔からよく親しまれていたのだろう。

 (踊り方)輪の進む方向を向いて、右、左、右…と片手を交互に振り上げて顔の横辺りで返しながら、同じ側の足を出して反対の足を小さく引き戻すのを繰り返して5歩進む。両手を振り上げて円心向きになって右足を後ろで踏んで、両手を振り上げながら右を蹴り出し、左を前に踏み込んで右足を後ろで踏み、左に行って手拍子(概要で延べた、大野地方の踊りに特徴的な所作)、右に行って手拍子、左に行って手拍子で最初に戻る。

 「祭文」の節回しは臼杵市のものや津久見市の「三勝」と同種だが、踊り方は全く異なる。一般に「ハンカチ踊り」といって、ハンカチや手拭などを右手でつまんで、それをヒラリヒラリと翻しながら踊っている。同じことの繰り返しなので、わりと簡単で親しみ易い。

 (踊り方)円心向きで踊る。右足を後ろで踏み、今度は前に踏み込んで右手を前に出してハンカチをグルグルグルと振り回す。これをもう1度繰り返して、右、左、右、左と移動し(大野地方の所作)、その場で両手を振り上げながら右、左と小さく蹴り出して最初に戻る。

 野津市村の盆踊りの中でいちばん難しいのは「三重節」で、この踊りになるとやや輪が小さくなることもある。この唄は大野地方一円に伝わっており、その名前からおそらく三重町、三重地方が元なのだろう。音引き部分の節の上り下りが多く、下の句の頭でサーエーと思い切り引き伸ばす点など、素朴ながらも「聞かせどころ」の多い唄である。一般に「団七踊り」の唄として伝承されていることが多いが、野津市村の三重節は手踊り。体の向きが頻繁に変わるため「前の人、横の人の真似をして踊る」ということが困難で、初めての人にはとてもハードルが高い。

 (踊り方)円心を向いて、その場で両手を振り上げながら右、左、右と小さく蹴り出し、左足を後ろで踏んで、左足を右足に揃えて手拍子を打つ。輪の進む方向を向いて両手を振り上げながら右足を蹴り出し、左足を後ろで踏んで、左足を右足に揃えて円外向きになり手拍子を打つ。輪の進む向きと反対の方向に右足を蹴り出して両手を振り上げ、左足を踏み込んで両手首を反対に返しながら前に振り出す。円心向きになり、左に行って手拍子(大野地方の所作)、右に行って手拍子、左に行って手拍子で最初に戻る。

 「由来」はいちばん簡単な踊りで、臼杵市や大分市吉野の「三勝」と同じ唄。上の句と下の句の間に囃子が入らない単純な唄だが節回しはそれなりにおもしろいし、下の句の囃子の「エイガサーサイトコサイ」が何とも力強くて印象に残る。臼杵ではハンカチをつまんで片手を交互に振り上げるような踊り方だが、野津市村では手踊りになっている。

 (踊り方)輪の進む方向を向いて、右足を左前に滑らせながら腰を曲げて両手を左下に振り下ろしてそのまま振り上げ、今度は反対に左足を右前に滑らせながら両手を右下に振り下ろしてそのまま振り上げ、もう一度振り上げながら右足を後ろで踏んで円心向きになる。お夏のときと同じように両手を振り上げながら右を蹴り出し、左を前に踏み込んで右足を後ろで踏み、左に行って手拍子(大野地方の所作)で最初に戻る。

 「切り上げ」は、北海部地方において盆踊りの最終に唄われることの多い「きそん」とか「サンサ節」と呼ばれている唄と同種。この唄のみ一口口説になっている。上の句の唄い方が特徴的で、「踊りゃくんずれそうなまだ茶は沸かぬ…」の文句だと「くんずれそうな、くんずれそうな、踊りゃくんずれそうな…」というふうに、頭をひっくり返して唄うのが何ともおもしろい。その場の音頭取りが1節ずつ順番に唄っていって、最後は必ず「信州万々歳 思うこた叶うた、末は鶴亀おさめよく」などのおめでたい文句で終わる。たったの3節程度しか唄われないことが多く、盆踊りの最後の最後にほんの少し聴けるだけだが、この唄になると雰囲気がガラリとかわるために印象に残り易い。踊り方は「由来」と全く同じであり、踊り手は、この唄に切り替わっても、何事もなかったかのように「由来」の踊りを続けるだけである。

 

4、おわりに

 

 野津の踊りの特徴(全部が同じテンポ、切り替えがなめらか、独特な踊り方)をどうしても紹介したくて、少々冗長な文章になってしまった。実際に行ってみるとすぐわかることでも、文章で説明するのはとても難しい。 また、野津町の中でも、旧野津市村という限定的な地域の盆踊りの紹介しかできないことも残念に思う。いつかは野津町全体の記事として、もっとわかり易い書き方を工夫して、まとめてみたい。