イレコ

・ヤンソレ音頭さんちょいと止めた お留め申すは気の毒じゃ 気の毒ぁ蔓にしておいて

 私が音頭に謎かけよ 私がかけたら解いてたも 十三娘とかけたなら

 それまた音頭さん何と解く 音頭が解かねばわしが解く 十三娘とかけたのは

 竹やぶ雀と解きゃせぬか さわれば逃げるじゃないかいな

・おっさん待ちないちょい止めた 私が一丁入れやんしょ ちょうど去年の盆じゃった

 私が踊りに来る道に 豆腐が半丁あえちょって しくしくしくしく泣きよった

 なんで泣くかち聞いたなら そんまた豆腐の言うことにゃ もとのお豆になりたいと

 ほんとにしくしく泣きおった 難しことじゃち思うたけど 私が見たときゃ背が低うぢ

 あんよも元来ガニ股ぢ どこぞち取柄はねえけんど これでも男ん端くれじゃ

・わしが一丁どま入れやんしょ あんまり寒さに長火鉢 武部源蔵を差しくべて

 ちょいと一杯管丞相 燗が熱くば梅王丸 呑んだるお顔が桜丸

 八重に咲かして花と見る 今宵の座敷が苅屋姫 最早東が白太夫で

・ヤンソレおいさんちょいと待った 待ったと止めたがイレコだよ 私が一丁入れましょか

 私のイレコは変なもの 一かけ二かけて三かけて 四かけて五かけて橋ゅかけて

 橋の欄干腰かけて 遥か向こうを眺むれば 十七八の姉さんと 七十八九のじいさんが

 片手に花持ち線香持ち しっくりひゃっくり泣いてくる 何か薬はあるまいか

 それこそ薬は多いもの 山の浜辺のはまぐりと 瓜なる茄子をとっておき

 まつふうづきをばとっておき 水で焼いて火で練って 氷をつければすぐ治る

・待たんせ待たんせ音頭さん 私がここらでちょいと止めた 止めたらイレコと悟らんせ

 私ゃ入れ好き入れやんす 何が出るかはそりゃ知らぬ 出たときゃわかる若い衆

 じいさんばあさんごめんなれ 若い衆も女中さんもなおごめん ごめんごめんなおごめん

 富士山お山の北べらの 山芋なんぞとかけたのは こりゃまた御連中なんと解く

 年寄りの○○○とわしが解く よう解きやんしたお心は 掘り手がないではないかいな

 今度の音頭さん助平なら やるから取りなよまた入るる

・待った待った待ちなりな 待ったといったらイレコじゃろ わしが言うこたひょんなこと

 西郷さんが戦に行くときに 高い崖からクソ垂れた 下んワクドに垂れかけた

 下んワクドが鳴くことにゃ あんまり無体な西郷さん 駄賃もくれずに荷を積んだ

・音頭さん音頭さんちょいと止めた 度々止むるも気の毒な なれど私はイレコ好き

 一丁ここから入れやんしょ 入れてこできたるわしじゃもの その子の私もイレコ好き

 ま一丁皆さまどなたさま ま一つ入れなきゃ夜が明けぬ 私のイレコを解きやんせ

 何でもかけなれ解いてみしょ 十四の息子とかけたのは こらまたあんたたちどう解くか

 十四の息子とかけたのか 十四の息子とかけたのは 丁田の稲じゃとわしは解く

・大将ちょいと止めた 止めたじゃないのよ貸しなされ 貸したるところで入れたなら

 私ゃもとよりイレコ好き 二三丁入れなきゃ夜が寝れぬ 口先出たのを申すなら

 一かけ二かけて三をかけ 四かけ五かけ六をかけ 七かけ八かけ橋をかけ

 橋の欄干に腰かけて はるか向こうを眺むれば 十七八なる姉ちゃんが

 片手に花持ち線香持ち あたりしくしく泣いてます 姉ちゃんの言うこと聞いたなら

 私ゃ九州鹿児島の 西郷隆盛娘です 戦死なされた父ちゃんの

 お墓まいりでございます

・若い衆謎かけ解いてみよ 柱時計とかけまする 柱時計とかけたのは

 こりゃまた若い衆なんと解く 柱時計とかけたのは 日露戦争と解いておけ

 勝ち勝ち進むじゃないかいな よう解きなされたお心は カチカチ進むじゃないかいな

・わしがちょいと出て入れましょか 娘十七八 嫁入りに 箪笥 長持 鋏箱

 縮緬羽織が十二枚 これほど仕立ててやるからにゃ 行ってから帰るなのう娘

 そこらで娘の言うことにゃ 父さんお母さんそりゃ無理よ 千石積んだる船さえ

 向こうで嵐の強いときゃ 元の港に戻ります わしもお母さんその通り

 向こうの主人のひどいときゃ 元の我が家にゃ帰ります

・一かけ二かけて三かけて 四かけて五かけて六かけて 橋の欄干腰かけて

 はるか彼方に目をやれば 十七八の姉ちゃんが 筍かかえて泣いている

 姉ちゃん姉ちゃんなぜ泣くの すると姉ちゃんの申すには 家の裏の竹やぶに

 紫竹破竹は生えたけど 私ゃまだまだ生えません

・今度竹田の行列は 一では鉄砲二では弓 三では三社の大神輿

 四では白旗猩猩で 五では五人のうちわどり 六つ六柱振り立てて

 七つに何にもあい揃え 八つ屋敷の宮巡り 九つこれまで持ってきて

 十でトントと舞い納め

・朽網の流れを申そうか 緒方の流れを申そうか 朽網の流れも五千石

 緒方の流れも五千石 緒方の流れを申しましょ 緒方で名高い三ノ宮

 三ノ宮なる祭典は 一で鉄砲 二で白熊 三で三社の御神輿

 四では白旗 猩々緋 五では五人の団扇舞 六つ六頭振り立てて

 七つ何にも御揃うた 八つ社に舞い込んで 九つここらで宮巡りサ

 十でトントコトンの舞い納め

・待て待て待て待たしゃんせ 何なにからやりましょか つくつくぼうしでやりましょか

 港々に船が着く 船には櫓もつきゃ船頭つく 船頭のドタマにゃ鉢巻がつく

 船頭のお腰にゃ紐がつく 船頭のお腰にゃ金がつく その金めがけて女郎がつく

 その女郎めがけてカサがつく そのカサめがけて医者がつく 女のお腰にゃ紐もつく

 じいさんばあさん杖をつく

・沈堕が滝の科人は 落て口ばかりが十二口 十二の落て口ゃ布引の

 上には大日観世音 下には大蛇が七頭 その滝落ちる科人は

 落てりゃ大蛇のままとなる 

・立つ立つ尽くしで申すなら 正月門には松が立つ 二月初午市が立つ

 三月三日にゃ雛が立つ 四月八日にゃ釈迦が立つ 五月お節句にゃ幟立つ

 六月祭典旗が立つ 七月七夕笹が立つ 八月九月の頃となりゃ

 秋風吹いて埃立つ 十月出雲に神が立つ 霜月寒さで雪雲が立つ

 十二月とぞなるなれば 借銭取りが門に立つ

・遥か向こうを眺むれば 十七八なる姉さんが 着物は久留米の紺絣

 帯は筑前博多帯 足袋は白足袋柾の下駄 姉さんどこよと尋ぬれば

 田舎育ちのうぐゆすで 宿をとろうちゃ宿はなし 梅の木小枝を宿として

 明日は殿御の四十九日 いよいよ殿御の墓参り 善光寺さんに参りがけ

 善光寺さんの石段を 一段上がりてわっと泣く 二段上がってわっと泣く

 三段四段は血の涙 上がりつむれば墓の前 石碑の前に線香立て

 紅葉のようなる手を合わせ 糸より細き声を出し 南無阿弥陀仏と伏せ拝む

・じいさんばあさんちょいとごめん 私が一丁入れやんしょ 一合升 二合升 三合升

 四合升 五合升 六合升 七合升 八合升 九合升 私とあなたは一升升

 一緒になれば寝られます 寝れば布団がふくれます ふくれりゃピョコピョコ動きます

 動けば黄汁がこぼれます こぼれりゃ布団が汚れます 汚れりゃおっかさんに叱られる

 朝から布団の丸洗い

・待て待て待て待てちょいと待たんせ 音頭にちょっこらちょいと声休め

 まず今晩のお供養に 真心こめてのご寄付を 感謝の気持ちでいただいて

 篤く御礼申します この酒いただく皆さんは 寿命も長かれ徳もあれ

 この世は息災延命で 未来は必ずお浄土に 参らせ給うぞありがたや

 これより御礼申します

・牡丹に唐獅子 竹に虎 虎を踏まえて和藤内 内藤さんは下り藤

 富士見西行 後ろ向き むき身はハマグリ貝柱 柱は二階と縁の下

 下谷上野の山桂 桂文治は噺家で でんでん太鼓に笙の笛

 閻魔は盆とお正月 勝頼様は武田菱 菱餅 三月雛祭り

 祭り万灯 山車屋台 鯛に鰹に蛸鮪 ロンドン異国の大港

 登山するのはお富士さん 三遍回って煙草にしょ 正直正太夫 伊勢のこと

 琴や三味線 笛太鼓 太閤様は関白じゃ 白蛇の出るのは柳島

 縞の財布に五十両 五郎十郎 曽我兄弟 兄弟針箱 煙草盆

 坊やはよい子だ寝んねしな 品川女郎衆は十匁 十匁の鉄砲玉

 玉屋の花火は大元祖 宗匠のいるのは芭蕉庵 あんかけ豆腐に夜鷹そば

 そば屋にゃバラ銭ドンチャンチャン ドンチャン母ちゃん四文おくれ

 お暮れが済んだらお正月 お正月の宝船 宝船には七福神

 神宮皇后 武の内 内田屋見物 七つ梅 梅松桜は菅原で

 藁で束ねた投げ島田 島田金谷は大井川

・夕べ日出からカカ貰うて 別府・浜脇通り越し 高崎山が仲立ちで

 田ノ浦蒲団を持って来て 白木のたんすが十二棹 かんたん枕も持って来て

 生石・駄ノ原通り越し 言いたいことはいろいろと ほうらい山ほどあるけんど

 言うたら盛家の若い衆が あんぽんたんとばかにする ちょいとここらで沖の浜

・今度柞原から嫁貰うて 八幡・御幸町通り越し 火王さんが仲立ちで

 浜の市でたんす買い 生石で長持買って来て かんたん枕も買って来て

 春日・駄ノ原通るとき 勢家辺りの若い衆に よい嫁貰うたと褒められて

 着いたところが沖の浜

・賀来がた辺の魚釣りは 国分煙草を腰にさげ 横瀬にゃばっちょ笠ひっかぶり

 鶴田をかたげて向原 ここは行かりょか同尻の 広津留魚は食いつかれ

 おどいおどいと鬼瀬を 通り過ぐれば池の上 池にも魚はおらんので

 持病の蛇口を引き起こす

・柚の木でしばらく入湯して 竹の脇をば下りかけ

 詰にゃけつまずいて田代まで 丸田で丸めた赤野薬 買うて来鉢の袋まで

 雨の古野にゃちょいと困る 志手の坂をば下りがけ 北方辺にゃ宿をとる

・馬の中尾にゃまたがりて ひとむち当つれば富永の 森の木辺までかけつけた

 賀来神社にも参詣し 餅田で餅をたんと食い そこでお金も角の前

 わしの白ハゲよいけれど かかの片面にゃわしゃ閉口 あまり長いのもご退屈

 ここらあたりで大分か