宇佐市の盆踊り唄 1

1、庭入について

 

(1)概要

 宇佐地方の山間部に伝わる初盆供養の行事を「庭入」という。国東方面では初盆の家を門廻りで踊ることを「庭入」と呼ぶこともあるが、ここでいう「庭入」とは単に門廻りの供養踊りではなく、それに付随する一連の儀礼的なものを指す。別府市や山香町、湯布院町の一部でも行われているのだが、その中心部は宇佐地方であるのでここに項目を設けることにした。

 庭入にあたっては、事前に「傘鉾」を準備しておく。平均4mから5m程度の高さの棹に傘をつけ、提灯をいくつも提げたり、短冊をたくさんつけた竹ひごを提げたりするもので、その形態は多岐に亙る。詳細は「地域別の特徴・伝承状況」の項に譲るが、いずれも依代としての役割を持ったものかと思われる。

 古い様式の一例を示す。盆の13日に公民館などに集まり、集落の成人男性が隊列を組み初盆家庭に向かう。中には、提灯を持つ先導者、囃子方(笛・三味線・あたり鉦など)、傘鉾を運ぶ等の役割を持つ人もいる。門口に着けば、隊列を崩さずに坪を左回りに3周し、傘鉾を杭などに固定する。先導者が家人に挨拶をし、全員で念仏を唱える。さらに和讃または御詠歌を歌うが、これは新仏の享年や性別によって内容が変わることが多い。その後は「しかしか」の読み上げとなる。これは盆踊りの由来を説いたもので、代表者が巻物を取り出して読み上げ、一息ごとに太鼓をトントンと打つ。「しかしか」からの連続で「ばんば踊り」が始まる。これも左回りで、特定の音頭取りは置かずに踊り手が次々に唄い継いでいく。一応ここまでが「庭入」で、この後は右回りで「マッカセ」「レソ」などいろいろな踊りを次々に踊る(老若男女問わず輪に加わることが多い)。ハネ前には女性や子供は輪から出て、成人男性のみで「蹴出し」や「三つ拍子」等の所定の踊りを踊る。笛が鳴り始めれば終了の相図にて、踊りを切り上げて「庭出」にかかる。傘鉾を外し、隊列を組み直す。家人に挨拶をし、右回りに坪を廻って退出、次の家に向かう。

 このようなやり方で一軒ずつ廻るため初盆が多い年は明け方近くになることもあった。それで、特に初盆が多い年には12日あるいは11日から始めて、数夜に分けて行う集落もあった由。今は、人口の減少や高齢化で、庭入のみ門廻りで行い、その後で位牌を広場に寄せて合同供養踊りをするか、または最初から位牌を広場に寄せておき庭入も踊りも合同ですることの方が多くなっている。また、性別を問わずに「ばんば踊り」から皆で踊ったり、または庭入・庭出の行列に女性も加わる例も見られるようになった。旧来のやり方は変わってきているものの、現実に即した形でどうにか続けていこうといろいろ工夫されている。

 

(2)伝承地域一覧

 伝承地域を見ると、その中心となるのは安心院町・院内町であることがわかる。谷に沿って放射状に広まったと考えられるが、それは一方通行ではなく相互に影響を及ぼし合ったような形跡が認められる。なお、下記は平成30年現在の状況で、一部過去のものも含まれている。今後、状況が変わる可能性が高い。随時、最新の情報を反映させていきたい。

 凡例…○=残存

    △=休止中あるいは現状不明

    ×=廃絶

    門廻り=庭入も踊りも初盆の家を門廻りで行う

    折衷=庭入のみ門廻りで、踊りは広場に位牌を寄せて合同で行う

    寄せ=庭入も踊りも広場に位牌を寄せて合同で行う

・宇佐市

  ○麻生地区(寄せ)、×西馬城地区

・院内町

  ○両川地区(門廻り)、○高並地区(寄せ)、△東院内地区(門廻り)

  ○院内地区(門廻り/寄せ)、○南院内地区(門廻り/寄せ)

・安心院町

  ○安心院地区(門廻り/折衷/寄せ)、○津房地区(門廻り/寄せ)

  ○竜王地区(寄せ)、○明治地区(寄せ)、○佐田地区(寄せ)

・山香町

  ×山浦地区、×上地区、○上河内(門廻り)

・日出町

  ○南端地区(門廻り)

・別府市

  △天間地区(門廻り/寄せ)

・湯布院町

  ○塚原(折衷)、○並柳(寄せ)、○荒木(寄せ)

  ○若杉(門廻り)、△下津々良・鮎川(門廻り)

 

(3)和讃と「しかしか」

 和讃には「地蔵和讃」「花田和讃」「箱根和讃」「都和讃」「善光寺和讃」「六字和讃」等いろいろあるが、ここには最も広く親しまれている「花田和讃」「地蔵和讃」を掲出する。また「しかしか」は、大筋は同じだが細かい語句の差異が認められる。例示は一つにとどめた。

 

「花田和讃」

☆そもそも都のかたわらに るりしと申せし女人あり

 世継ぎに男子を設けしが 時をも嫌わで娑婆を立つ

 死すれば野原に送り捨て 夜半の煙となりぬれば

 七日々々が七々日 三十五日もうち過ぎて

 四十九日に当たる日は あまりに我が子の可愛さに

 明日は花園寺参り 寺の小縁に腰をかけ

 つくづく花を眺むれば 開けし花は散りもせで

 蕾の花の散るを見て もしや我が子もあのごとし

 南無阿弥陀仏南無阿弥陀 南無阿弥陀仏南無阿弥陀

 

「地蔵和讃」

☆奇妙頂礼天竺の 頻婆裟羅王と申せしが

 弘誓の御船を浮かせ給う 船は白銀櫓は黄金

 六字の御名号の帆を揚げて 地蔵菩薩が船頭する

 船は西へと急がれる 西は西方の弥陀如来

 弥陀の御浄土へ着きにけり 南無弥大慈悲の観世音

 南無阿弥陀仏南無阿弥陀 南無阿弥陀仏南無阿弥陀

 

「シカシカ」

☆東西々々御静まり候えや 御静まり候

 月に群雲花に風 夕べの稲妻朝顔の露

 世は有為転変の世の中とは申せども 老少不定は世の習

 ここに御当家御○○様 長々の病の床に臥し

 医者薬肝胆と尽くせども ついにその甲斐あらずして

 儚くこの世を去り給う 月重なり日重なり

 つい初盆と渡らせ給う あまり初盆の寂しさに

 村の若い衆童供 おもしろからんばんば踊りを

 取り組みましてござらば いや待ったばんば踊りとは

 謂れなきことにてなし その謂れ申す暫く御免候えや

 古天竺霊鷲山において 浄飯大王の御子に釈迦如来と申す御仏あり

 釈迦の御弟子目連尊者と申す僧あり 目連尊者の御母上様

 喧闘邪見の至りにて 等活地獄に堕在し給う

 このとき目連尊者大きに悲しみて 釈迦如来に告げ給う

 釈迦如来答えて曰く 日に百人の僧を寄せ

 三界万全に位牌を担ぎ 高さ九尺に棚をかけ

 卯月五日より文月十三日に至るまで 万度供養を勤めなば

 地獄上りを宣えり このとき目連尊者大きに喜びて

 三界万全に位牌を担ぎ 高さ九尺に棚をかけ

 百人の菩薩方 着たる浴衣を衣と表し

 被りし笠を青葉と表し 手には蓮華の花を持ち

 衣の袖をうち振りて ばんばばんばと踊らせ給う

 これが今が世に至るまで 笛の唄口太鼓の音締

 鐘の音は諸行無常と響くらん さあさ用意ござらば

 さあさ音頭始め候えや 音頭始め候

 ※このまま間をおかずに「ばんば踊り」の音頭にかかる。

 

 

 

2、地域別の特徴・伝承状況

 

(1)宇佐市

・集落ごとに初盆の供養踊りをしており盛況。ただし庭入は麻生などごく一部でしか行われていない。ほかに、一部ではお稲荷さんや観音様の寄せ踊り、宮踊り、寺踊りなどもしている。かつては市全体の懸賞踊りもありたいへん賑わったが、残念ながら途絶えている。

・この地域の盆踊りは「マッカセ」と「レソ」が主で、ほかに「ヤンソレサ」「らんきょう坊主」等も比較的広範囲で踊られている。7種類程度の踊りが残る集落もある一方で、2~3種類に減った集落も多くなっている。よほど「マッカセ」の人気が高いようで、近年はますます「マッカセ」偏重の傾向が強まっているようだ。

・「マッカセ」にしても「レソ」にしても、地域によって節も踊りも違い、バリエーションに富んでいる。地域ごとの特色がよく保存されている一方で、地域をまたがる大きな盆踊り大会をするには困難を伴う。

 

a 宇佐地区

・集落ごとに合同供養踊りをするほか、寺踊りや宮踊りもあり盛況。今は、門廻りの盆踊りはしていないようだ。

・現行の演目は「マッカセ」「レソ」「ヤンソレサ」「らんきょう坊主」の4種類。どの踊りも手数が少なく、覚えやすい。中入れを挿まず、4種類を1回ずつ踊って1時間程度で終わるのが常である。昔はもっと踊りの種類が多かったのかもしれない。口説と太鼓。

 

b 封戸地区

・集落ごとの盆踊りは下火になっているようで、地区全体で合同供養踊りをしている。小学生に教えるなど保存伝承に熱心で、盛況である。

・演目は「マッカセ」「レソ」「ヤンソレサ」「唐芋踊り」「らんきょう坊主」の5種類。口説と太鼓。

 

c 北馬城地区

・集落ごとに合同供養踊りをするほか、地区全体の盆踊り大会もしており盛況。

・現行の演目は「マッカセ」「レソ」「ヤンソレサ」「らんきょう坊主」の4種類で、宇佐地区と共通だが音頭は若干異なる。特に「らんきょう坊主」の唄い方は近隣地区との違いが目立つ。口説と太鼓。

 

d 西馬城地区

・集落ごとに合同供養踊りをしている。一部では秋葉様の寄せ踊りもしており、仮装が出て盛況。

・矢部や熊では、昔は庭入を伴う供養踊りをしていた。初盆の家を門廻りで踊っていた。傘鉾を出し、和讃、念仏、しかしか等の後に「ばんば踊り」で輪を立て、一般の踊りに移行していた。

・演目は「ばんば踊り(千本搗き)」「マッカセ」「レソ」「二つ拍子」「蹴出し」など。宇佐市街地とは音頭も踊りも異なり、安心院のものに近い。口説と太鼓。

 

e 和間地区

・集落ごとに合同供養踊りをするほか、一部ではお稲荷さんの寄せ踊りもしている。

・演目は「マッカセ」「レソ」「ヤンソレサ」など。口説と太鼓。

 

f 長洲地区

・集落ごとに合同供養踊りをするほか、寺踊りもある。

・この地域には「御殿燈籠」を燃やす行事があり、ニュース映像等で度々紹介されている。御殿燈籠は、一般的な盆提灯とは全く異なる。精巧な屋敷や坪、水車や滝に水が流れるようになっているなどの細工が凝らされた、一畳ほどもあるような大きさの立派なものである。盆の15日に、初盆の家から広場まで御殿燈籠を運ぶ。その道中では「マッカセ」等の盆口説を唄うのが常であったが、今は故人の好きな音楽を流すなどいろいろなやり方が見られる。広場で、御殿燈籠に火をつけて燃やす。これは精霊船を流したり、七夕の笹飾りを燃やしたり流したりするのと同じ意味だろう。

・演目は「マッカセ」「サノサ」など、3種類程度。この地域の「マッカセ」は陰旋で、暗い雰囲気の節である。しんみりとしたよさがあって、他地区のものとはずいぶん感じが違う。口説と太鼓。

 

g 柳ヶ浦地区

・集落ごとに合同供養踊りをする。

・演目は「マッカセ」「レソ」「唐芋踊り」など。口説と太鼓。

 

h 駅館地区

・集落ごとに合同供養踊りをするほか、一部では観音様の寄せ踊りもしている。

・現行の演目は「マッカセ」「レソ」「唐芋踊り」の3種類だが、「唐芋踊り」は省略するところが多くなっている。「唐芋踊り」はすこぶる単調な踊りで、「マッカセ」「レソ」よりも古いものかと思われる。口説と太鼓。

 

i 豊川地区

・集落ごとに合同供養踊りをする。

・演目は「マッカセ」「レソ」「らんきょう坊主」「ヤンソレサ」などいろいろあったが、近年は踊りの種類が減り「マッカセ」「レソ」の2種類に限られつつあるようだ。口説と太鼓。

 

j 八幡地区

・詳細不明

 

k 四日市地区

・集落ごとに合同供養踊りをするほか、寺踊りもあり盛況。昔は地区全体の盆踊り大会もあった。

・演目は「マッカセ」「レソ」「ヤンソレサ」「エッサッサ」などいろいろあったが、近年は「マッカセ」「レソ」の2種類に限られつつある。「マッカセ」しか踊らないところもある。口説と太鼓。

 

l 高家地区

・詳細不明

 

m 糸口地区

・集落ごとに合同供養踊りをするほか、一部では宮踊りもしている。

・演目は「マッカセ」「レソ」「ヤンソレサ」「エッサッサ」など、4~5種類程度。口説と太鼓。

 

n 天津地区

・集落ごとに合同供養踊りをする。

・いろいろな踊りがよく残っている地域である。演目は「マッカセ」「レソ」「ヤンソレサ」「らんきょう坊主(待つがよいか)」「唐芋踊り」「エッサッサ」「三勝」などがあり、上敷田では7種類程度を踊っている。しかしその他の集落では踊りの種類がだんだん減ってきて、4~5種類程度になっているようだ。口説と太鼓。

 

o 長峰地区

・集落ごとに合同供養踊りをするほか、地区全体の戦没者供養踊りもしている。

・子供達に太鼓や口説を教えるなど、伝承に熱心な土地柄である。

・演目は「マッカセ」「レソ」などがある。口説と太鼓。

 

p 横山地区

・集落ごとに合同供養踊りをする。かつては集落ごとに初盆の家を門廻りで踊っていた。

・演目は「マッカセ」「レソ」「唐芋踊り」「三勝」「ヤンソレサ」などがあるも、種類が減ってきて「マッカセ」「レソ」が主になっているようだ。口説と太鼓。

 

q 麻生地区

・集落ごとに合同供養踊りをする。昔は集落ごとに初盆の家を門廻りで踊っていた。

・上麻生、中麻生、下麻生の3集落のみ、庭入が残っている。昔は山口でも庭入をしていた。

・演目は「ばんば踊り(エイソリャ)」「マッカセ」「レソ」「二つ拍子」「三勝」「蹴出し」「六調子」などがあり、この中から5種類程度を踊っている。口説と太鼓。

(上麻生)

・合同で庭入と供養踊りをしている。

・傘鉾は全高3mで、尖端には傘ではなく竹ざるがつく。そのざるから、割竹を輪にしたものを3段に提げ、ざるとめいめいの輪には合計37個の提灯が提がる。

(中麻生)

・合同で庭入と供養踊りをしている。

・ここの傘鉾はよそとずいぶん違っていて、太鼓を入れる枠と一体化している。初盆の家を順々に廻るときに太鼓を持ち運びやすくした工夫かと思うが、太鼓を入れる四角の枠に担い棒がついている。その太鼓を入れるところの上に番傘を立て、傘のぐるりには5個の提灯が提がっている。

(下麻生)

・合同で庭入と供養踊りをしている。

・傘鉾は全高4mほど。竹棹の尖端には蛇の目傘が、その下には竹の輪が3段つく。めいめいの輪には提灯が合計32個提がる。

・和讃、「シカシカ」のあとに「ばんば踊り」を踊る。男女問わず踊る。その後は一般の踊りとなる。

・現行の演目は「ばんば踊り(エイソリャ)」「二つ拍子」「マッカセ」「三勝」「レソ」の5種類。宇佐市街地とは音頭も踊りもずいぶん異なる。「マッカセ」は院内の節に近く、「二つ拍子」「三勝」「レソ」は本耶馬溪の節に近い。また「マッカセ」と「レソ」はもともとよく似た踊りだが、ここではその違いがほとんどわからないほどに踊り方が同化している。口説と太鼓。

 

(2)院内町

・集落ごとに庭入を伴う供養踊りをしている。ただし近年は、盆踊りをやめたり休止したりしているところが多くなってきている。院内町では平成に入ってもなお、初盆の家を門廻りで行うところがほとんどだった。戦時中に中断した盆踊りが戦後すぐに復活した集落はまだしも、昭和40年代、50年代に復活した集落も寄せ踊りではなく門廻りの踊りで行い、そのまま続けたというのは特筆に値する。平成に入っても寄せ踊りに移行することなく、廃絶・休止に至った例が多いようだ。なお町全体の夏祭りのときにも旧来の盆踊りを踊っており、時間は長くはないも大きな輪が立っている。

・演目は「マッカセ」「レソ」が主だが、ほかに玖珠方面の踊りも入ってきており踊りの種類が多い。どの演目も地域によって節や踊りが違い、バリエーションに富んでいる。

・この地域では初盆の家を門廻りで踊っていく関係で高い音頭棚は設けず、せいぜい床縁程度の低い台を音頭棚に代えることが多い。一方で庭入で出す笠鉾は非常に立派なものが目立つ。中には高さが6mを越し、50個以上の提灯を提げたものも見られる。

 

a 両川地区

・昔は全ての集落で、初盆の家を門廻りで庭入と供養踊りをしていた。ところが高齢化や人口の減少で、今は広瀬や香下などほんの数か所に残るのみとなっている。寄せ踊りはしていないようだ。

・演目は「マッカセ」「レソ」「蹴出し」など7種類程度。口説と太鼓。

 

b 高並地区

・昔は全ての集落で、初盆の家を門廻りで庭入と供養踊りをしていた。今は多くの集落で廃絶または休止している。地区全体の「高並法蓮まつり」が盛況で、その際に庭入や盆踊りもしていたのだが、残念ながら平成30年が最後となってしまった。

・演目は「マッカセ」「レソ」「蹴出し」など7種類程度。口説と太鼓。

 

c 東院内地区

・昔は全ての集落で、初盆の家を門廻りで庭入と供養踊りをしていた。今は多くの集落で廃絶または休止している。

・演目は「マッカセ」など7種類程度。口説と太鼓。

 

d 院内村

・昔は全ての集落で、初盆の家を門廻りで庭入と供養踊りをしていた。今でも斎藤では、昔の通りに傘鉾を出して門廻りで行っている。月俣では広場で、合同で行っている。

・演目は「マッカセ」「レソ」など7種類程度。口説と太鼓。

(斎藤)

・庭入と供養踊りを、初盆の家を門廻りで行う。全て青壮年の男性のみで執り行っており、古い形をよく保存している。

・斎藤の傘鉾は、全高7.5mにも及ぶ。立てた丸太の尖端には蛇の目傘をつけ、その下には9本の竹棹を水平につけ、その竹棹には合計70個以上もの提灯を提げており壮観。それを初盆の家から家に持ちまわるのだから、大変な労力と思われる。傘鉾とは別に花籠も出る。これは竹の先に籠をつけたもので、その籠からはヒゴを長くたらし、めいめいのヒゴにはたくさんの短冊がついている。

・初盆の家に繰り込んだら、御詠歌のあと「しかしか」を読み上げる。斎藤の「しかしか」は他所と少し違う。「東西南北静まりたまえ」の口説文句になっていて、これは「ばんば踊り」の口説である。おそらく「しかしか」の詞章は本来別にあり、「東西南北…」云々は踊りを伴うものだったのではないかと思うが、推測の域を出ない。

・演目は「五調子」「六調子」「マッカセ」「蹴出し」「レソ」「木挽き」「寿司押し」など7種類程度。口説と太鼓。床縁の上で傘をさした音頭取りが、マイクなど使わずに口説き、踊り手が囃すという昔ながらのやり方である。

 

e 南院内地区

・昔は全ての集落で、初盆の家を門廻りで庭入と供養踊りをしていた。南院内地区は谷川が深く、小集落がたいへん多い。各集落の人口減少が著しく、今でも門廻りで庭入りをするのは下余と温見だけになっているようだ。羽馬礼や余上組では寄せ踊りになってはいるも、帰省者も含めて比較的大きい輪が立っている。供養踊り以外の踊りとしては、一部で豊年踊り(八朔踊り)の寄せ踊りをしている。

・演目は「マッカセ」「レソ」など7種類程度。口説と太鼓。

(上納持)

・初盆の家を門廻りで庭入をしていたが、休止中。

・演目は「ばんば踊り(ソレナー)」「マッカセ」「レソ」「五調子」「二調子」「寿司押し」「木挽き」「大津絵」など8種類程度で、種類が多い。このうち「ソレナー」は日田方面の、「寿司押し」は玖珠方面の音頭である。おそらく縁故関係などで伝わった流行の踊りを取り入れたものが残ったのだろう。口説と太鼓。

(下余)

・庭入と供養踊りを、昔の通りに初盆の家を門廻りで行っている。

・院内地区の斎藤と同じような形の傘鉾だがこちらの方がやや低く全高6.5m、47個の提灯を提げる。花籠が分離しているのも斎藤と同じである。

・予め傘鉾を初盆の家の坪に立てておいてから、太鼓や横笛、チャンガラの囃子手と花籠の担い手、踊り手が坪に繰り込む。御詠歌、「シカシカ」の読み上げのあと、「ばんば踊り」、その後は一般の盆踊りである。

・演目は「ばんば踊り」「三つ拍子」「マッカセ」「レソ」「一つ拍子」「二つ拍子」「蹴出し」など7種類程度。口説と太鼓。男女問わず踊りに参加する。途中より故人の遺影を抱いた身内の人も輪に加わる。

・踊りが終われば御詠歌を唱えてから、また行列を出て坪を出て(傘鉾は最後に出す)、次の家に向かう。

 

(3)安心院町

・集落ごとに庭入を伴う供養踊りをしている。しかし近年は、盆踊りをやめたり、休止したりしているところが増えてきている。安心院町では、院内町よりも早いうちに門廻りの踊りから寄せ踊りに移行した例が多々見られた。供養踊り以外の盆踊りとしては一部で宮踊り、観音様の寄せ踊り等も見られたがほとんど廃絶している。ただし安心院盆地祭りでは町全体の盆踊り大会をしており、仮装も出て盛況。

・演目は「マッカセ」「レソ」が主だが、ほかにも地域ごとにいろいろな踊りがあり、種類が多い。どの演目も地域によって節や踊りが違い、バリエーションに富んでいる。

・この地域では従来、初盆の家を門廻りで踊っていく関係で高い音頭棚は設けず、せいぜい床縁程度の低い台を音頭棚に代えることが多かった。ところが近年は寄せ踊りが多くなった関係で、立派な音頭棚(櫓)をかけることが多くなっている。

 

a 安心院地区

・安心院町の中でも盆踊りが盛んな地域である。昔は全ての集落で、初盆の家を門廻りで庭入と供養踊りをしていた。寄せ踊りに移行した集落もあるが、今でも数か所に門廻りの踊りが残っている。また、庭入のみ門廻りで行い、その後でゲートボール場などの広場で寄せ踊りをする集落もある。折衷案とでもいえるものだろう。寺踊りもある。

・演目は「三つ拍子」「マッカセ」「レソ」「二つ拍子」「蹴出し」「大津絵」「エッサッサ」などがあり、種類が多い。口説と太鼓。

(下市)

・今は広場で、集落合同の庭入と供養踊りをしている。安心院の中心部で比較的人口が多く、帰省者なども参加し大きな輪が立っている。

・傘鉾を出し、和讃、「しかしか」から「ばんば踊り」に移行し、その後は一般の踊りとなる。

・現行の演目は「ばんば踊り」「マッカセ」「レソ」「エッサッサ」「二つ拍子」「大津絵」の6種類。昔は「三勝」や「蹴出し」も踊っていたとのこと。口説と太鼓。

 

b 竜王地区

・昔は全ての集落で、初盆の家を門廻りで庭入と供養踊りをしていた。今は集落合同の庭入と供養踊りが僅かに3か所程度に残るのみとなっている。そのうち1か所は、4つの集落が合同で踊りを立てる。寺踊りもある。以前は宮踊りもあった。

・演目は「三つ拍子」「マッカセ」「レソ」「二つ拍子」「蹴出し」「大津絵」「エッサッサ」「七つ拍子」「六調子」などたくさんあったが、今は5種類程度になっている。竜王地区の踊りは、安心院地区や津房地区のものとは音頭も踊りも少しずつ違う。口説と太鼓。

(中山)

・竜王地区の中では最後まで門廻りの踊りが残っていた集落で、平成20年代になってもなお初盆の家を門廻りで踊っていた。今は公民館にて、合同で庭入と供養踊りをしている。

・傘鉾は前項4m程度で、棹の尖端からたくさんのヒゴを垂らし、提灯や色とりどりの短冊を飾り付け、電飾も賑やか。これは新仏が、道に迷わずに帰って来られるように派手な飾りと灯りを工夫したものだろう。

・昔の通りに成人男性のみで坪に繰り込み、和讃、「しかしか」のあと、「ばんば踊り(千本搗き)」を踊る(津房地区のそれとは音頭も踊りも全く違う)。そのあとは一般の盆踊りで、老若男女入り混じってみんなで踊る。

・現行の演目は「ばんば踊り(千本搗き)」「マッカセ」「蹴出し」「レソ」「大津絵」「二つ拍子」の6種類。昔は「七つ拍子」や「六調子」などもあった。口説と太鼓。

 

c 明治地区

・昔は全ての集落で、庭入を伴い、初盆の家を門廻りで踊っていた。この地域は小集落が多く、集落ごとに踊りを立てるのが困難になり、複数の集落ごとに合同供養踊りをする形に移行し、それが長らく続いていた。今は、寄せ踊りが僅か4か所程度に残るのみとなっており、門廻りの踊りは見られない。

・演目は「マッカセ」「レソ」「二つ拍子」「蹴出し」「大津絵」「三勝」「七つ拍子」「六調子」などたくさんあったが、今は5種類程度になっている。竜王地区の踊りに似通っている。口説と太鼓。

(南香)

・福貴野周辺のいくつかの集落の集まりを南香といい、小学校跡の校庭にて庭入と供養踊りを合同で行っている。

・傘鉾は全高4.5m程度で、竹棹の尖端に番傘をつけ、その縁の四方に「南無阿弥陀仏」の紙を垂らす。棹の半ばには十文字の竹をつけ、提灯が4個提がる。傘鉾とは別に花籠があり、花籠も全高4.5m程度。竹棹の尖端から長いヒゴをたくさん垂らし、そのヒゴには色とりどりの短冊や提灯がたくさんついている。

・校庭に繰り込んだら和讃、「しかしか」のあとに「ばんば踊り」、その後は一般の盆踊りとなる。

・この地域の踊りは由布院方面から入ってきたとのことで、音頭や踊り方を見ると安心院中心部との差異が大きい。

 

d 佐田地区

・戦前までは集落ごとに初盆の家を門廻りで庭入と供養踊りをしていた。昔から、男女の別を問わず参加していたとのこと。戦時中に一時中断し、戦後に復活した際、門廻りで行うのではなく佐田地区全体の供養踊りとして小学校校庭にて合同で行うようになり、今に至る。おそらく、安心院町や院内町で最も早い時期に寄せ踊りに移行した地域だろう。10以上の集落が合同で踊りを立てるので昔はたいへん賑やかだったが、だんだん寂しくなってきている。

・佐田の傘鉾は、全高4m程度。竹棹の尖端に番傘をつけ、ぐるりに「南無阿弥陀仏」の赤い幕を巡らせ、その内側には長提灯が3個提がる。その下には、棹につけた十文字の竹に提灯が4個提がる。その下につけた竹の輪からは、色とりどりの短冊をたくさんつけた長い竹ヒゴがたくさんさがり、たいへん立派なものである。

・校庭に繰り込んだら和讃、「しかしか」のあと、供養踊りに移行する。おそらく、昔は一般の踊りに移行する前に「ばんば踊り」があったのではないだろうか。

・現行の演目は「マッカセ」「レソ」「二つ拍子」の3種類のみ。これらは「安心院盆地祭り」で踊られており、運動会その他で踊る機会も多いことから若い世代にも親しまれているので、輪が立ちやすいのだろう。昔はほかに「三つ拍子」「三勝」「七つ拍子」「六調子」「蹴出し」も踊り、合計8種類を数えていた。口説と太鼓。

 

e 津房地区

・昔は全ての集落で、初盆の家を門廻りで庭入と供養踊りをしていた。今は寄せ踊りに移行した集落がほとんどで、門廻りの踊りは松本に残るのみとなっているようだ。盆踊りをやめた集落もある。

・演目は「三つ拍子」「マッカセ」「レソ」「二つ拍子」「蹴出し」「大津絵」「エッサッサ」などがあり、7種類程度を踊っている。口説と太鼓。

(楢本)

・昔は初盆の家を門廻りで庭入と供養踊りをしていたが、戦後の一時期は途絶えていた。その後、寄せ踊りとして復活して今に至る。帰省者も参加し、大きな輪が立つ。

・公民館の坪に繰り込んだら和讃、「しかしか」のあと「ばんば踊り」を踊り、その後は一般の盆踊りとなる。

・現行の演目は「ばんば踊り(エイソリャ)」「三つ拍子」「マッカセ」「レソ」「蹴出し」「エッサッサ」「二つ拍子」の7種類。この順番で踊り、最後にもう一度「三つ拍子」を踊る。昔は「七つ拍子」も踊っていた。口説と太鼓。

(尾立)

・昔は、初盆の家を門廻りで庭入と供養踊りをしていた。今は公民館にて合同で行う。

・尾立の傘鉾は近隣集落とずいぶん違っていて、ほとんど花籠のみになっている。全高4m程度で、竹棹の尖端に扇型の飾りがつく。その下の花籠からたくさんの長いヒゴが垂れるが、半ばを竹や針金で締めて形を整えずに、外に大きく広がりながら垂れさがるようになっている。ヒゴには、たくさんの白い短冊がついている。そしてヒゴの垂れているところの内側には、棹に竹の輪が2段ついており、それぞれに提灯を4個ずつ提がっている。他集落のような色鮮やかさはないが、たいへん立派。

・公民館の坪に繰り込んで和讃、「しかしか」のあと「ばんば踊り」を踊る。「ばんば踊り」を踊るのは男性が多く、これは昔の名残だろう。また、坪の中央に立派な音頭棚を設けているのに、「ばんば踊り」の際には特定の音頭とりを置かずに、踊りながら順々に適当な一口口説をつないでいく形をとっている。古い形態をよく残しているといえるだろう。その後は一般の盆踊りで、音頭棚に上がった音頭取りの口説に踊り手が囃子をつける形態となる。「ばんば踊り」を遠慮していた人も大勢加わり、大きな輪が立つ。

・現行の演目は「ばんば踊り(エイソリャ)」「三つ拍子」「マッカセ」「レソ」「蹴出し」「七つ拍子」「エッサッサ」「二つ拍子」の8種類。踊り方は楢本と同じだが、音頭は一部異なる。「七つ拍子」は一時期下火になっていたが、復活した。最後にはもう一度「三つ拍子」を踊る。口説と太鼓。

(松本)

・今なお初盆の家を門廻りで庭入と供養踊りをしている。音頭棚はごく簡素で、床縁のようなものである。これは門廻りで行うためで、昔は町内各地でこの形態が普通だったが、今は稀になっている。

・一連の庭入行事からの連続で、「ばんば踊り」のみ左回りに踊る。男女問わずに踊っている。その後の一般の盆踊りは、他集落と同じく右回りに踊る。

・演目は「ばんば踊り(エイソリャ)」「マッカセ」「レソ」「蹴出し」など7種類程度。音頭の節や踊り方が、楢本や尾立とはやや異なる。