枕音頭

1、坪借り

・東西南北おごめんなされ 家にござるかご主人様は 家にござれば願いがござる

 わしはこれから二三丁四五丁 しばし離れた住居でござる 風の便りで承れば

 どうか御当家に誰某さまの お果てなされし初盆そうで さぞや御家内お寂しうござろ

 寂しかろとて青年子供 皆心を打ち寄せまして 盆の供養なり菩薩のためと

 今宵一夜は踊りてあげる しばし間は坪貸しなされ 坪は貸すともお世話はいらぬ

 あらよ嬉しや坪借り受けた 皆どなたも踊りておくれ

・東西南北おごめんなされ おうちござるかこの家の亭主 家にござれば願いがござる

 聞けばこの家は初盆そうな さぞやご家族お寂しうござろ 盆の供養の踊りをせんと

 おせも子供もみな寄り来たで しばし間どま坪貸しなされ

 坪は借りても持ちては行かぬ やれ嬉しや坪借りました

 それじゃみなさん輪を立てましょや 

 

2、輪立て

・今日はお盆の十六日よ 月はなけれど灯はあかあかと 音に名高き忠霊廟で

 数多輩あるその中で 上下集まる部落の集が 殉国英霊御霊の前で

 心揃えてお供養の踊り そこで遺族は大喜びで 涙流してお礼を申す

 差す手引く手も見事でござる 団扇ハンカチ色白娘 白い鉢巻ゃ若い衆達で

 広いお庭も白波渡る 如来様までお覗きなさる 覗きなさるな御仏様よ

 今日はお盆の十六日で 餓鬼の首さえゆるむじゃないか 今宵明くれば明日から地獄

 踊りましょうよ夜の明けるまで 踊り抜きましょ夜の明けるまで

・秋の空澄み馬さえ肥えて 広い田の面にゃ秋風渡る 今年ゃ豊年穂に穂が咲いて

 道の小草もお米が実る どこのどなたもお揃いなれば 手拍子そろえて踊ろじゃないか

 さあさ皆様踊りておくれ

・誰もどなたもはよ出ちゃ来ぬか 足もだるかろ手もだるかろが 今宵や踊りは供養の踊り

 供養なりゃこそしっかりしゃんと踊れ 踊りゃ輪になれ片輪にゃなるなされ

・今宵や踊りは伊達ではないぞ 先祖・祖先のお供養の踊り 一つ手を振りゃ千部の供養

 二つ手を振りゃ万部の供養 太鼓打て打て空まで響け 踊るお方はお囃子頼む

 老いも若いもどなたも様も しばし間は踊りておくれ

 

3、文句の枕

・やれ嬉しや一輪ができた できたところでこの次の声 しばししばらく文句にかかる

 誰もどなたもよく聞きなされ そこで説き出す口説きの文句 何がよいかえ踊り子様よ

 あれよこれよと探しちゃみたが 慣れぬ私にゃ見つかりませぬ

 早く出て来いよいよな文句 やっとでました文句の一つ しばし間は理と乗せましょな

・誰もどなたもお揃いなれば じなしゅ数々述べましょよりも

 何か一つは理と乗せましょか あれよこれよと探しちゃみたが

 田舎育ちで見つかりませぬ 早く出て来いよいよな文句 やっと出ました文句の一つ

 文句違いや仮名間違いは 平にその儀はお許しなされ

・わしが出しますヤブから笹を つけておくれよ短冊を

 唄の文句はゆんべこそ習うた 粋な文句は知らねども

 忘れ残りの一節 二節 切れたそのときゃごめんなれ

 

4、つなぎ文句

・よんべ山香の踊りこ見たら おうこかたげち鎌腰ゅせえち 踊る片手じゃ稗餅こぶる

 こぶる稗餅ゃぼろぼろあゆる あゆる稗餅ゃいやりが運ぶ 運ぶいやりこ達者ないやり

 色は黒うてもいやりのように いつも働くよい妻欲しや 嫁を貰うなら山香の娘

 色は黒いが立派なものよ 親にゃ孝行 夫にゃ貞女 隣近所の付き合い上手

 家畜飼うのが大変好きで 仕事間にゃ牛飼いまする それで今では山香の牛は

 世間評判の牛となる 嫁を貰うなら山香の娘 家畜飼うなら山香の牛を

・よんべ山家の踊りこ見たら おうこかたげち鎌腰ゅせえち 踊る片手じゃ稗餅こぶる

 こぶる稗餅ゃぱらぱらあゆる あゆる稗餅ゃいやりが運ぶ いやりゃ何する雪ん下覚悟

・杵築山田の踊りを見たら おうこかついで鎌腰さいて 踊る片手に稗餅かじる

 かじる稗餅ゃぱらぱらあゆる あゆる稗餅ゃいやりが運ぶ 運ぶいやりは踏み殺された

・日出の山家の踊りを見たら おうこかついで鎌腰さいて 踊る片手に稗餅かじる

・盆の十六日おばんかて行たら 上がれお茶飲めやせうま食わんか

 茄子切りかけ不老の煮しめ

・一で神明矢口の渡し 二つ舟屋の頓兵衛こそは 三つみのせの六郎丸よ

 四つ吉宗台を失くす 五つ稲荷の社の中に 六つ娘子お舟が心 七つ難なく若君様よ

 八つ矢口の渡しへ参れ 漕いで九つこの川底に 沈み給いし兄嫁様よ

 十でとんしゅう菩提の谷よ

・魚津荒町糸屋の娘 姉と妹に紫着せて どちらが姉やらさて妹やら 姉が朝顔妹が牡丹

 妹欲しさに願かけまして 一に京都の大日如来 二に新潟の白山様よ

 三に讃岐の金比羅様よ 四に信濃の善光寺様よ 五つ出雲の緑神様よ

 六つ村中がお天道様よ 七つ成田の御不動様よ 八つ八幡の八幡様よ

 九つ高野の弘法大師 十で所の氏神様よ これだけかけたる願かけなれど

 とても叶わぬその時にはと 背戸の泉水身を投げ捨てて 三十五ひろの大蛇となりて

 鱗逆立ち角振り回し 姉が妹を取りつくろうた

・家の娘は良い器量の娘 背戸の小川で青菜を洗う そこへ旦那が馬乗り通り

 この娘よい娘じゃよい器量の娘よ ちょいとでかけりゃ妻にもするが

 なりが小そうて妻にもできず そこで娘さんの言うこと聞けば

 お前さ旦那さん何云わしゃんす 物の譬えで申そうならば 山の中にも大山小山

 山が小さいとて担がりゃせまい 石の中にも大石小石 石が小さいとて歯が立つものか

 川の中にも大川小川 川が小さいとて手じゃ止められぬ 針の中にも大針小針

 針が小さいとて呑まれもせまい 橋の中にも大橋小橋 橋が小そうても人通りゃでかい

 鳥の中にも大鳥小鳥 鳥が小そうても天立ち登る そこで旦那が理屈に困りゃ

 立てりや芍薬座れば牡丹 五月野に咲く姫百合の花 御縁あるなら又会いましょう

・娘十七八ゃ嫁入り盛り 箪笥長持ちはさみ箱 これほど持たせて遣るからは

 二度と再び戻るじゃないと 言えば娘は物言いかける これさ旦那さん何言わしゃんす

 物の喩えで申そうならば 東曇れば空とやら 西が曇れば風とやら 南曇れば雨とやら

 北が曇れば雪とやら 千石船さえ出船のときは まともなれども早や出て戻る

 まして私は花嫁じゃもの ご縁なければ戻るもします

・生まれ山国育ちは中津 命捨て場は博多町

 博多町をば広いとおっしゃる 帯の幅ほどない町を

 帯にゃ短いたすきにゃ長い お伊勢編み笠の緒にこそよかろ

 お伊勢編み笠をこき上げて被りゃ 少しお顔を覗いてみたい

 見ても見厭かぬ鏡と親は まして見たいのは忍び妻

 忍び妻さん夜は何時か 忍びゃ九つ夜は今七つ

 七つ八つから櫓を押し習うて 様を抱く道ゃわしゃまだ知らぬ

 様を抱くにも抱きようがござる 左手枕 右手で締める

 締めてよければわしゅ締め殺せ 親に頓死と言うておきなされ

 親にゃ頓死と言うてもおこうが 他人は頓死と思いはせぬぞ

 思うてみたとて色には出すな お前若いからすぐ色に出る

 色にゃ迷わぬ姿にゃ惚れぬ わしはお前の気に惚れました

 惚れたほの字が真実ならば 消してたもれや私の胸を

 胸にゃ千把の火を焚くけれど 煙あげねば他所の氏は知らぬ

 ヤレ知るまい二人の仲は 硯かけごの筆のみぞ知る

 筆と硯ほど染んだる中も 人が水差しゃ又薄くなる

 薄くなってもまた磨りゃ濁る そばに寝ていりゃなおさら濁る

 そばに寝ていりゃこっちを向けと 朝の別れを何としたものか

 何としたやらこの四五日は 生木筏か気が浮きませぬ

 生木筏で何の気が浮こうぞ 様が浮かせぬ気持ちじゃものを

 様は切る気じゃわしゃ切れぬ気じゃ 割って見せたいこの腹の中

 腹の立つときゃこの子を見やれ 仲のよいとき出来た子じゃないか

 仲がよいとて人目にゃ立つな 人目多けりゃ浮名が立つよ

 浮名立つなら立たせておきゃれ 人の噂も二月三月

 三月四月は袖でも隠す もはや七月隠されませぬ

 隠しゃ罪になる懺悔すりゃ消ゆる

 

5、踊りの切替前

・あまり何々が続いたほどに 誰もどなたも飽いたようにゃ見ゆる

 誰もどなたもこの先頃で 覚悟よければ切り替えまする 誰もどなたもお覚悟なされ

 覚悟よければこの口限り

・あまり速いのが続いたほどに 踊る皆さんだんだんご苦労

 誰もどなたも切り替えましょか 覚悟よければこの先頃で

 ヤレそうとも切り替えまする 覚悟よければこの次の句で

・あまり続けばみなさん厭いた 厭いたところでしな替えましょか

 踊るお方よお覚悟なされ 太鼓打つ方お覚悟なされ 覚悟よければこの句が限り

・誰もどなたも厭いたよに見ゆる 飽いたところで切り替えましょか

 やれそうともお覚悟なされ 覚悟よければこの先頃で 何に替えよか何やりましょか

 村の若い衆の意見を聞けば 今日び流行の何々をやろえ それじゃ皆さんこの次の句で

 やれそうとも切り替えまする いやさ皆さん覚悟はよいか 覚悟よければこの口限り

・あまり長いのが続いたほどに 踊る皆さんだんだんご苦労

 ここら辺りで切り替えましょか 誰もどなたもお覚悟なされ 覚悟よければこの口限り

・踊る皆さんこの先の句で 品を替えましょお覚悟なされ 覚悟よければこの次の句で

 品を替えますすっぱりこんと替える

 

6、踊りの切替後

・替えた替えたじゃ何々に替えた 誰もどなたもお手振り返せ しばし間は何々でせろな

 今日び流行の何々でやろな そこで皆さん願いがござる 踊る皆さん囃子を頼む

 囃子なければ口説かれませぬ

・替えた替えたよ品替えました しばし間はゆるゆるやろな 一つ手を振りゃ千部の供養

 二つ手を振りゃ万部の供養 踊る皆さんお手振りなされ 踊りゃゆるゆるしなよく頼む

・何々踊りはのろまな踊り のろうてのどかで品よい踊り 品はよけれど難しゅござる

 踊る皆さん揃えてござれ 太鼓打つ人お頼み申す やれ嬉や踊りが揃うた

・替えた替えたよ何々に替えた 何々踊りは威勢な踊り あまり速けりゃお尻が回る

 足もだゆかろ手もだゆかろが 今宵や踊りは伊達ではないぞ 先祖・祖先の供養の踊り

 一つ手を振りゃ千部のお供養 二つ手を振りゃ万部のお供養 しばし間はお手振りなされ

・やろなやりましょな何々やろな どうで踊りは何々でなけりゃ

 一重二重の輪が立ちませぬ あまり遅けりゃ子供衆ゃひやけ しばし間は速いがよかろ

 

7、音頭の交替前

・声が出ませぬ蚊の声ほども まだもやりたやこの先ゃ長い 長いけれども蚊の鳴く如く

 声が出ませぬしばらくしばし 音頭切らしちゃそれこそすまぬ そこで皆様お頼み申す

 しばし間の声継ぎゅ頼む やれ嬉しや太夫さんが見えた 誰もどなたもお覚悟なされ

 覚悟よければこの声さらば

・まだもこの先読みたいけれど 声が出ませぬ蚊の鳴くごとく やれそうとも声継ぎ頼む

 いやさそうとも声継ぎゅ頼む やあれ嬉しや太夫さんが見えた

 見えた太夫さんに渡すが花よ いやれそじゃそじゃお覚悟なされ

 覚悟よければこの声さらば

・まだもこの先ゃ千尋あれど 後にゃ太夫さんがつめかけておる

 見えた音頭さんにゃ渡すが道よ 誰もどなたもお覚悟なされ 覚悟なさればこの口限り

・まだもこの先読みたいけれど 見えた見えたよ太夫さんが見えた

 見えた太夫さんにゃ唐傘渡そ 渡しますぞえこの先の句で 渡しまするぞこの口限り

 

8、音頭の交替後

・じわっと受け取る先様お上手 先の太夫さん京都な江戸な 一で声よい二で節がよい

 三で音頭の調子といわず 四で気楽にお口説きなさる 五でご評判山より高い

 六つ昔の三太夫の声に 勝りゃするともひけ取りませぬ 七つ難なく流した後に

 わしを見たよなごく下手者が 音頭切らしたその時こそは 先の太夫さんに助太刀頼む

 わしの音頭で合うかは知らぬ 合うか合わぬか合わせちゃみましょ 合えば義経千本桜

 合わにゃ高野の石堂丸よ 合わぬところは囃子で頼む 万に一つも合うたるならば

 枯木花じゃと褒めくだしゃんせ 枯木花でも咲いたときゃ見事

 咲くか咲かぬか咲かせちゃみましょ

・貰うた貰うたよからかさ柄杓 貰うにゃ貰うたが合うかは知らぬ

 合えばそれよし合わぬとあらば そこらここらの姉さん方の 袖や袂や絵巻の端に

 隠し隠されご赦免なされ わしが見たよな田舎のチャボが 四角四面の櫓の上で

 音頭とるとはおおそれながら 長の月日の貧苦の世話に 唄も文句もみな打ち忘れ

 忘れ残りのそのあらましを しばし間は口説いちゃみよか

・貰いましたじゃ受け取りました わしの様なる若輩者が 音頭取るのもおおそれながら

 まずは一声理と乗せましょか 何がよいかと探しちゃみたが

 慣れぬ私にゃ見つかりませぬ はやく出て来いよいよな文句

 文句出なけりゃこの場が切れる この場切れては皆様困る 困りますればご先生に返す

・先の太夫さんよ長々ご苦労 わしが貰うたよ傘貰うた 傘は貰うたが行こか知らぬ

 行けばばそれよし行かぬとあらば 誰もどなたも囃子で頼む 囃子一番音頭が二番

 囃子なければ口説かれませぬ 囃子つけても行かないときは 袖や袂にお隠しなされ

・貰いましたよ受け取りました アラ貰うたよ唐傘柄杓 貰うにゃ貰うたが行こかは知らぬ

 行けばそれよし行かぬがままよ 行かにゃ高野の石堂丸と 行けば義経千本桜

 わしが文句で合うかは知らぬ 合えばそれよし合わぬがままよ

 離れ駒じゃと飛ばしちゃみよか 離れ駒ならよく飛びましょが

 わしの口説で飛ばないときは そこらここらの姉さま方の 袖や袂や絵巻の端に

 隠し隠されご赦免なされ じなし数々延べましょよりも

 ここらあたりで何やりましょか 流行る口説も様々あれど 長い夏中の忙しさゆえに

 唄も文句もみなこき忘れ 忘れ残りのそのあらましを 口説きますぞえしばしの間

 それじゃ皆さんお手振りゅ頼む

・貰うた貰うたよ唐傘貰うた わしの口説は二三が四五里 四五里奥山 松の木ゃ緑

 

9、景品配り

・いやさ嬉しや景物そうな 誰もどなたも早う出ちゃ踊れ いやさよいかな用意ができた

 しばし間どまお手振りなされ さても嬉しや景物そうな

 いやさどなたも早う出ておくれ いやさそうかなまだまだだめか

 やれ嬉しやもうすぐかいな 配りますぞえどなたも様も 急ぎなされや輪に加たらんせ

 

10、文句間違い・節間違いの後

・違うた違うたよこりゃまた違うた 誰もどなたもおごめんなされ

 

11、はね前に

・もうまそろそろ皆様方よ 名残つきねど時間となりぬ さぞや皆様お疲れ様よ

 高きこれより御礼申す 又の機会のあるその日まで しばし間はお別れ申す

 誰もどなたもこの先頃で 名残尽きねどお開きとする 覚悟よいかえ踊り子さんよ

 覚悟よければこの口限り

・名残つきねど皆様方よ はよも時間と相なりました 誰もどなたもお疲れ様よ

 名残つきねどまた来年の この日この場でまた逢いましょよ 今宵一夜の御供養の踊り

 さらばこれにてお暇申す 覚悟よければこの次の声 覚悟よければお開きとする

・東西南北受け取りました みんなどなたも願いがござる わしの願いは外ではないが

 もはや今宵も夜更けでござる あまり長いはこの家にゃお邪魔

 この家ご亭主にお暇を貰うて わが家わが家と帰ろじゃないか

 おおきにご退屈お邪魔になりた 坪の掃除もできずに帰る 坪の掃除はご家内様に

 明日の早朝にゃよろしく頼む みんなどなたもお暇乞うて 暗い夜道は気を付けなされ

 それじゃやめましょこの次の句で 誰もどなたもご苦労でした