野辺和讃

一つや二つや三つや四つ 十にも足らぬ幼児が 一度娑婆に生まれ来て
綾や錦を身にまとい 死んで冥土に行く時は 綾や錦を脱ぎ捨てて
京帷子に一重帯 頭に晒で頬被り 手ぬき脛あて足袋 裸足
紙緒の草履を足に履き さんや袋を首に掛け 糸針串や数珠を入れ
路銀と致す六文を 野辺まで路銀は多けれど 野辺から先は只一人
死出の山路を行く時は 後見るとても連れもなし 先見るとても伽もなし
声聞くとても時鳥 声聞くとても谷の水 三途の川や死出の山
麻の杖にと縋りつつ あの世の関となりぬれば 閻魔の前で帳調べ
これこれ幼児 七つ子よ われには三つの咎がある 一つの罪と申するは
親の対内 九の月 これが一つの罪咎よ 二つの罪と申するは
親も昼寝の疲れにて 眠気がさしても小言云い 乳首咥えて胸叩き
これが二つの罪なるぞ 三つの罪と申するは 親より先立つ不孝者
これが三つの罪咎よ 地獄じゃとても遣りゃならぬ 極楽とてもそりゃならぬ
賽の河原の地蔵尊 この子をそちに頼むぞよ 賽の河原の務めには
小石を拾い塔を積む 一重積んでは父のため 二重積んでは母のため
三重積んでは故郷の 兄弟わが身と回向する 昼はそうして遊べども
日の暮れ合いのその頃に 地獄の鬼が現れて 鉄棒携え牙を剥き
鬼ほど邪険なものはない 積んだ塔をば突き崩し 又積め積めと急きたてる
わっと泣き出すその声は この世の声とはこと変わり 悲しく骨身を砕くなり
われら罪無く思うかや われらの父母娑婆にあり 追善供養はそこそこに
只明け暮れる嘆きには 惨や可愛や愛しやと 母の嘆きが汝らの
苦言を受くるものとなる 鉄の棒挿し追い回す 泣く泣く寝ぬるそのために
木の根や石に躓きて 手足は血潮に染まりつつ その時峠の地蔵尊
これこれ幼な児 七つ子よ 汝が父母娑婆にあり 娑婆と冥土は程遠し
われを冥土の父母と 思うて頼め七つ子よ にくにくじいの御肌へ
縋らせ給う有難や 未だ歩まぬ幼な児を 抱き抱えて撫でさすり
たびの千草を与えつつ
南無や延命地蔵尊 南無阿弥陀仏 南無阿弥陀仏